ロシアのウクライナ侵攻によって、中国の台湾侵攻が現実問題として浮上している。米有力シンクタンク・戦略国際問題研究所(CSIS)が、中国の台湾侵攻に関して、24の机上演習用を行った。それによると、中国の台湾侵攻は失敗する可能性が高いが、米国及び日本を含む米同盟国にとって、高い代償を払うとの予測を発表した。日本にとって、台湾防衛は尖閣諸島・沖縄の防衛でもある。勝利を収めるには、最低限の損害もある。日本に、その覚悟を求めているのだ。
予測結果では、中国は多数の兵員を台湾に送り込むが、24の机上演習で目標を達成できず、開戦から2週間経っても台北を陥落できない、としている。最終的には、中国軍の敗北としているが、この予測を現実化させるには、何が求められているのか。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月23日付)は、「台湾をめぐる戦争、勝つのは誰か」と題する社説を掲載した。
米戦略国際問題研究所(CSIS)は、中国が陸海空軍共同で台湾に上陸侵攻を試みた場合に何が起こるかを検証した。CSISのアナリストたちは図上演習を24回行ったが、ほとんどのケースで米国が介入して侵攻を撃退した。台湾は民主主義体制として自治を維持する。だがその一方で、電力などの基本サービスは失われ、荒廃した島と化す。
(1)「図上演習は選択と仮定の産物だが、侵攻を撃退するには4つの前提条件があり、その条件が整う保証はない。まず台湾の人たちが戦わなければならない。台湾は防衛支出を拡大しているが、徴兵制と準備態勢は不十分だ。2つ目の条件は、兵器を事前配備する必要があることだ。戦いが始まった後に米国が友好国との国境から武器を投入するという、ウクライナ戦争と同じようなことはできない。台湾への米国製兵器の引き渡しは現在、受注から何年も遅れている」
台湾自体が、防衛体制を固めること。事前に、台湾並びに日本の南西地域に武器弾薬を備蓄しておくこと、が求められる。
(2)「3つ目の前提条件は、米国が日本にある米軍基地を確実に頼れることだ。日本の島しょ部がなければ、米国の戦闘機の航続距離で戦地に赴くことはできない。これは、日本が米国にとって太平洋地域で最も重要な同盟国である理由の一つに加えられる。4つ目の前提条件は、米国が射程の長い兵器で、「中国艦隊を迅速かつ一斉に攻撃できる」ことだ。海と空の戦闘で米軍の犠牲者数は膨大なものになるとみられる。報告書は、米国が「3週間で」、「イラクとアフガニスタンでの20年に及ぶ戦争で出た犠牲者の約半分」に相当する命を失うことになると指摘した。司令官らは「今生きている人々の記憶にはないほどひどい犠牲が出ているにもかかわらず、前進」を迫られる可能性があるという」
台湾防衛では、日本列島が重要な役割を果たす。基地機能の発揮だ。中国が、日本の基地を攻撃すれば、自衛隊が自動的に防衛へ加わる。中国にとっては、手強い相手が参戦するのだ。このほか、英国と豪州が「AUKUS」(米英豪)の軍事同盟に従って参戦する。
(3)「第2次世界大戦後の米国市民は、何十隻もの船舶を失って、それに耐えた経験がない。大半のシナリオでは、米海軍の空母(乗員5000人)2隻が大規模な損傷を受けたり、失われたりすることが想定されているが、そうした事態も経験していない。米国が介入する時期を待てば待つほど、犠牲者と失われる装備は増える。このことは、危機の際に政治的判断が下せないことによって損失が生じると警告している。80歳を超えた米大統領に、殺到する一連の難しい判断を下せるだけのスタミナと集中力があるかどうかも、尋ねる価値のある質問だ」
下線部は、高齢の米国大統領で非常時での決断が鈍ると危惧している。危機乗切りには、50代前後の壮年大統領が相応しいという指摘であろう。
(4)「明らかな点の一つは、中国軍がどれほど効果的に戦えるのか分からないというものだ。これは中国共産党への警告となる。100マイル(約160キロ)の幅の海峡を越えて、抵抗に遭いながら陸海空各方面から攻撃を仕掛ける上陸作戦は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナで実施した陸路の侵攻と比べはるかに難しい。中国の戦闘機が有人の航空機を撃ち落としたケースは、1967年が最後だ。ミサイル防衛は平時の訓練ではうまく機能するかもしれないが、戦時には失敗する確率が高くなる。欧州でのプーチン氏の苦戦を目にした中国の習近平国家主席が自問するかもしれない問いの一つは、中国軍の能力の高さに関して受け取っている報告が本当に正しいのか、というものだ」
習近平氏は、プーチン氏の苦戦から冷静な判断が必要である。プーチン氏も今になれば、とんでもない決断をしたと考えているであろう。一国で、多数の国を相手に戦うことが、どれだけ予想外のことが起こるかを示している。
(5)「読者の中には、台湾を見捨てるのがすべての問題の解決策だと結論付ける者もいるかもしれない。しかしそれは、信頼に足る世界の強国という米国の地位の終わりを意味する。米国の同盟諸国は、同盟関係の見直しに動き、ならず者国家はさらに向こう見ずになるだろう。台湾に侵攻すれば敗北すると中国にはっきり示すために、資金とエネルギーを注ぐことがますます重要になっているのは、このためだ。何が必要なのかについて米国民に知識を与え得る機密対象外の文書を公開するという点で、CSISの報告書は役に立った」
台湾防衛は、米国覇権がかかる問題である。戦わずして勝つには、戦争抑止力を高めるしかない。日米英豪の四ヶ国に課されたテーマである。
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