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韓国の文在寅・前大統領は在任中、40%台という高い支持率を得た。その秘密は、支持団体への配慮を優先したことだ。大統領選で投票した人々を満足させたのである。だが、この間に、国民の負担を増すような改革案は全て拒否し、事なかれ主義を貫いた点でも希有の存在だ。今、そのツケが国民へ回されている。

 

『朝鮮日報』(1月24日付)は、「ああ、文在寅」題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の姜天錫(カン・チョンソク)顧問である。

 

(1)「文在寅(ムン・ジェイン)大統領は2018年11月7日、保健福祉部長官から国民年金改革案の報告を受け、「国民目線に合わない」と突き返した。金宜謙(キム・ウィギョム)青瓦台報道官は、「単なる見直しではなく、全面的に見直せという意味だ」と述べた。彼は「改革案のどの部分が国民目線と合わないというのか」という質問に「保険料引き上げ」と答えた。保健福祉部の改革案は保険料率を9%から12~13%に引き上げる代わりに老後所得に年金が占める比率を40%(注:正しくは35.40% 2020年)から45~50%に高める内容だった。こうして国民年金改革は水泡に帰した」

 

文大統領(当時)は、保健福祉部による年金改革案を拒否した。保険料率の引上げが国民負担を増すという理由である。だが、韓国の年金所得代替率(税引き)は、35.40%である。年金所得代替率とは、現役時代の所得に対して給付される年金の比率だ。これを45~50%へ引上げるには、年金保険料率引き上げが必要というもっともな内容だった。日本の年金所得代替率(税引き後)は、38.70%(2020年)である。

 

(2)「年金については、全ての国の国民目線が同じだ。少なく払って早く、たくさんもらうことだ。しかし、経済原理に反するそうした年金制度は長く持ちこたえることができない。遅かれ早かれ破綻する。先進国または先進国の敷居を跨いだ国は例外なく年金危機を経験した。出生率が低下し、税金を払う労働人口は下り坂にあり、引退した年金生活者が急増するからだ」

 

韓国と同様に中国は、年金で行き詰まる国である。年金所得代替率(税引き)が、なんと92.40%(2022年)だ。現役時代と変わらぬ年金が支給されるが、2035年に年金財政破綻が分っている。22年から人口減社会に移行しており、高齢者が激増する。中国の「年金騒動」は目前であるだけに、韓国は早く年金改革に着手しなければならない。

 

(3)「年金危機は、単に年金危機で終わらない。年金を払って受け取るという均衡が崩れれば、国は借金をして年金を給付しなければならず、国の借金が増えれば国家予算による債務償還負担が増大。赤字予算が体質化すれば経済が低迷し、景気が後退すれば雇用が減り、雇用が減ると年金を払う人が減るという悪循環に陥る。扇動政治家はこの悪循環の隙に巣食って卵を産む。そして、国家の没落が本格化する」

 

年金財政の破綻は、国家財政の破綻へ繋がる。高齢の年金生活者へは、年金支払を止められないから国家財政で補うほかない。これが、回り回って経済体質を弱体化させる「業病」になるのだ。

 

(4)「少なく払ってたくさんもらいたいという国民心理は、どの国も同様だ。人口減少と高齢化という条件にも差がない。ところが、ある国は年金危機のせいで挫折し、ある国は持続可能な年金制度を新たにつくり出す。違いを生むのは国家指導者のレベルと力量だ」

 

文氏は、国家指導者としての判断を放棄していた。ただ、ポピュリズム大統領として、国民の人気さえ得られれば、それで良しとする刹那的判断に陥っていたのである。

 

(5)「『国民の目線に合わない』とし、文大統領が18年に年金改革案を退けた韓国は、22年末に年金改革を学ぶために日本に視察団を派遣した。日本は04年、世論と野党の反対を押し切って年金改革を断行した。日本側は韓国の視察団に対し、年金改革当時、小泉首相が「年金負担が増え、受給額が減るという苦い薬を飲み込むよう国民を説得した」と指摘し、年金改革における国家指導者の絶対的役割を強調した。経済活力が低下していく日本は、この改革さえもなかったら、既に挫折していただろう」

 

日本は、04年に年金改革を行なった。世論の反対を受けても、将来の年金財政悪化を食止めるには、断行せざるを得なかったのだ。文氏には、その決断を放棄したのである。

 

(6)「尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は年金改革を宣言した。1998年と2007年の小改革以来の大改革だ。今のスケジュール通りに進めても、27年にようやく実行可能だ。日本より23年遅れてしまった。教育改革、労働改革、国防改革、政府系企業改革、健康保険改革を先送りにした請求書も次々と突きつけられるだろう。 本当に「ああ、文在寅」だ」

 

韓国は、教育改革、労働改革、国防改革、政府系企業改革、健康保険改革と問題山積である。左派政権は、こうした改革を一切行なわずに放置してきた。国民の支持率低下を恐れてきたからだ。次期政権が左派になれば、改革は棚上げされるであろう。韓国は、時限爆弾を抱えた国である。