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ロシアは、ウクライナ戦争で装備品の入手難や人員不足、士気の低下に苦しんでいる。以前から可能性が指摘されていたが、指揮官らの対立のようなものも起きているというのだ。ロシア国内の状況は今一つ不透明であるが、戦線膠着と共にロシア内部での矛楯が吹き出ているのであろう。

 

『ニューズウィーク 日本語版』(1月24日付)は、「ロシアは多くの国家に分裂し、中国の弱い属国になる」と題する記事を掲載した。

 

ウクライナがロシアに勝利すれば、私たちが知る「ロシア連邦」は崩壊することになるかもしれない──あるエコノミストはこう指摘した。イギリスのシンクタンク「王立国際問題研究所(チャタムハウス)」の客員研究員であるティモシー・アッシュは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とロシア軍がウクライナに敗れるのは避けられないと考えている。ロシアによる軍事侵攻が始まってから11カ月目を迎える今、ロシア政府にのしかかる真の問題は、プーチンのロシアがどうなるのか、そして歴史は繰り返すのか、ということだと彼は言う。

 

(1)「ウクライナとロシアの問題をめぐる政策について、複数の政府に助言を行ってきたアッシュは、1月21日付のウクライナの英字紙「キーウ・ポスト」に論説を寄稿。その中で、戦争に敗北すればロシアは複数の国家に分裂することになるだろうという考えを示した。これはプーチンが約1年前にウクライナに軍事侵攻を開始した時に目指した「大ロシア」再生とは真逆の結末だ。「プーチン時代の終わりを目の当たりにすることになる可能性は十分にあるし、1991年のソ連崩壊の時のように、ロシア連邦が崩壊して数多くの新国家に分裂する可能性もあると思う」とアッシュは論説の中で述べた」

 

ロシア連邦共和国が、ウクライナ侵攻を機に分裂するとの見方が世界各国で登場してきた。これは、一つの歴史としての見方であるが、戦争という厳しい現実によって、過去の矛楯によって事態が進展する可能性を指摘したもの。この問題は、中国の台湾侵攻が起これば、中国国内でその反作用が起こり得るという意味で、ロシア国内の動きは注目すべきであろう。

 

(2)「現在のロシア連邦は89の構成主体──21の共和国、6つの地方、2つの連邦直轄都市(モスクワとサンクトペテルブルグ)、49の州、1つの自治州と10の自治管区──によって構成されている。これを基に考えると、ロシア連邦が崩壊した場合、20の国家が誕生する可能性があるとアッシュは予測する。「プーチンは、ロシアの領土拡大を狙ってこの戦争を始めたが、それによってかえってロシアが縮小することになるかもしれない」と指摘する。1991年のソビエト連邦崩壊で、主権国家としてのソ連はその存在を終えた。それがウクライナに独立をもたらし、そこからロシアとの対立の歴史が始まった」

 

ロシア連邦は、89もの構成体によって形成されるモザイク模様を描いている。結束を固めるには、中心であるロシア国力が盤石の重みを持つことが条件だ。それが、ぐらついてくると、タガが緩んでバラバラになるリスも高まる。

 

(3)「ロシア崩壊の可能性を予想する専門家は、アッシュだけではない。米ラトガーズ大学ニューアーク校の政治学教授で、ウクライナとロシアの問題に詳しいアレクサンダー・モティルは、1月7日のフォーリン・ポリシー誌の論説の中で、プーチンが権力の座を去った後には「熾烈な権力闘争」が起き、「中央集権制が崩壊し、ロシア連邦が分裂する」可能性が高いと指摘した。「その場合は誰が権力を握っても政権は弱体化し、ロシアは戦争遂行にかまけてはいられなくなるだろう」とモティルは述べた。「この混乱を生き延びた場合、ロシアは中国の弱い属国と化す可能性が高いし、生き延びられなければ、ユーラシアの地図は大きく変わる可能性がある」

 

ロシア連邦解体説は、世界の政治外交専門家が異口同音に指摘し始めていることが特色である。プーチン氏という大きな存在が、権力の第一線を去ることがあれば、その空白が大きな渦巻きを起すという論理展開である。下線部は、一つの筋立てとしては考えられるが、ロシア国民のプライドが中国の下になるということを受入れるか疑問である。大ロシア構想を受入れてきた国民が、逆に中国の下位になるのでは承知しないだろう。

 

(4)「フランスのシンクタンク「モンテーニュ研究所」の地政学専門家であるブルーノ・テルトレも、ウクライナ戦争が「二度目のソ連崩壊」をもたらす可能性が高いと指摘した。テルトレは昨年12月に、「プーチンはロシア世界(ルースキーミール)の統一に失敗しただけではない。今回の戦争によってロシアに最も近い複数の隣国も『脱ロシア』を望むようになった」と書いている。

 

フランスでは、「二度目のソ連崩壊」という見方がされている。何よりも、ロシア経済の停滞が、このような予測の根拠になっていると見られる。

 

(5)「米シンクタンク「ジェームズタウン財団」の上級研究員であるヤヌシ・ブガイスキは、西側の政策立案者たちは「差し迫る」ロシア崩壊に向けた備えがまったく出来ていないと警告する。ブガイスキは1月12日発行のポリティコ誌に寄稿した論説の中で、次のように述べた。「西側の当局者たちは、ロシア崩壊の影響に備えたり、ロシア帝国主義の崩壊につけ込んだりする代わりに、冷戦後の過去に戻れると信じたがっているように見える」と指摘する」

 

西側諸国に、ロシア崩壊という差し迫った見方はない。その意味では、外交・政治の専門家に見方に止まっている。今年中に、その真偽を試す機会がくるであろう。