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ドイツは、ようやくウクライナへの主力戦車の供与問題で決着をつけた。ロシアとの全面衝突を避けるために供与に慎重だったが、国内外の批判を受けて外堀が埋まった結果だ。隣国ポーランドのモラウィエツキ首相は、「他国と連携して戦車をウクライナに送る」とドイツに主力戦車「レオパルト2」の供与を認めるよう圧力をかけ続けた。ポーランドは、かつてドイツの侵攻を受けた歴史を持つ。そのポーランドが、ドイツの背中を押してウクライナへの提供を決めさせた。複雑な第二次世界大戦への感情があったのだ。

 

ウクライナが、ドイツ製戦車「レオパルト2」の提供を求め続けたのは、軽量であることと高い信頼性にあるという。ドイツ機械工業の結晶である。

 

『フィナンシャル・タイムズ』(1月24日付)は、「ドイツ製戦車が最適、ウクライナが欲する理由」と題する記事を掲載した。

 

ウクライナ軍は、ロシア軍から領土を奪還しようしており、作戦上、最新鋭戦車は必須とみられている。そのロシアは新たな攻勢に向けて15万人の兵士を動員した。ロシア側は兵員の装備や武器を更新すべく、同国の国防産業は戦時体制を取っている。双方にとって次の6カ月が非常に重要になる。

 

(1)「米国の「エイブラムス」、英国の「チャレンジャー2」、ドイツの「レオパルト2」といった西側の戦車は、ウクライナ軍がロシア軍の防衛線を突破し、軍事的主導権を握るための火力をもたらす。ロシア軍が今後、再攻勢に出た場合にウクライナの防衛線を守るうえでも必要だ。領土を奪還するための歩兵部隊と火砲による機動作戦において、戦車は決定的な要素だ。加えて、西側の戦車はロシアの戦車に対して優位となる。装甲の防護力、砲撃の精度、夜間作戦などを可能にする操縦・誘導システムなどが優れている」

 

ウクライナ軍にとって、ドイツの「レオパルト2」を不可欠としている。軽量であることから、ウクライナの橋梁を補強しなくても通過できるというメリットがあるのだ。ドイツが、欧州13ヶ国が保有する「レオパルト2」のウクライナでの使用を認めたので、ウクライナ軍にとっては大きな戦力補強になる。

 

(2)「専門家によると、ドイツのレオパルト2は性能面で米国のエイブラムス、英国のチャレンジャー2と似通っているが、いくつか利点がある。エイブラムスより軽量で、ガスタービンエンジンの同戦車より燃料補給が簡単だ。信頼性の点でチャレンジャー2に勝るともみられている。だが決定的な利点は、手に入れやすいことだ。英シンクタンクの国際戦略研究所(IISS)によると、レオパルト2は欧州13カ国の軍が合計約2000両を運用している。そのうちどれだけがすぐに実戦投入できるか、改修が必要な車両はどれだけなのかは不明だ。だが、ウクライナにとっては豊富な供給源になりうる。交換部品や整備の要員もそれだけ得られやすい」

 

レオパルト2は、欧州13カ国の軍が、合計約2000両も運用している。そのうちどれだけがウクライナへ提供されるか不明だが、ウクライナにとっては豊富な供給源になりうる。

 

(3)「ウクライナ軍は、旧ソ連時代の戦車を持っていた。だが、ウクライナを支援する国々の間では、旧ソ連時代の戦車の砲弾や交換部品がごく限られる。したがって火砲と同様、ウクライナは西側の標準装備の戦車に転換する必要があり、さもないと砲弾や砲身などの交換部品が尽きる恐れがある。これがレオパルト2のもう1つの利点だ。配備数が多い同戦車をウクライナ軍が使えるようになれば、修理や交換部品、砲弾が一本化され、後方支援が簡素化する」

 

欧州で保有されているレオパルト2が、ウクライナ軍へ提供されれば、砲弾や砲身などの部品交換が簡単に行えるというメリットが出てくる。

 

(4)「米国は、エイブラムスを供与しないとしている。ウクライナには保守整備が困難であることに加え、欧州内に適切な選択肢、つまりレオパルト2が多数あることが理由だ。ドイツ政府は、北大西洋条約機構(NATO)を引き込むことにつながるような紛争の激化につながるとロシアに認識される恐れがあることから、レオパルト2の提供をためらっている(注:その後に承認)」

 

ドイツがためらった理由は、第二次世界大戦中にドイツ軍戦車とソ連軍戦車が激突した光景が再現することを恐れているという。ドイツは、当時の最新鋭戦車を相次ぎ投入したものの、物量で勝るソ連軍に圧倒された経緯がある。それだけでなく、戦闘中に多くの住民や捕虜を虐殺し、占領地を経済的に収奪した。こうしたことが、ドイツ史の汚点として刻まれている。ドイツのこうした古傷が、レオパルト2の提供でうずくというのである。同じ敗戦国の日本も、このドイツの気持ちが理解できるであろう。