中国文化という土壌は、毛沢東や習近平氏のように度を超した独裁者が出てくる危険性を秘めている。中国4000年の歴史で、独裁体制を維持させている裏には、市民社会という根っ子のないことが悲劇の出発点であろう。だが、今や大学教育を受けた人間が、毎年1000万人以上も卒業する社会になった。「習近平独裁」が、いつまで続けられるか、だ。
『日本経済新聞』(1月26日付)は、「習氏一極、中国にもたらす災禍」と題する寄稿を掲載した。筆者は、米ユーラシア・グループ社長で国際政治学者のイアン・ブレマー氏である。
中国の習近平国家主席は、2022年10月の第20回共産党大会を経て、与党・共産党、ひいては国全体への支配を強め、毛沢東以来で最も強力な指導者となった。習氏が集権化に向けて動き出した10年前に比べ、内部の抵抗はさらに弱まった。その結果、10億人を超える国民の生活を左右することも可能になり、絶大な権限を手中にした」
(1)「世界経済の安定と地政学的な権力均衡への中国の重要性は毛沢東時代より格段に高い。習氏への権力集中は世界共通の問題だ。習氏が最近下した決定をいくつか振り返ってみたい。外国製のメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの輸入を拒否し、14億人の国民は新型コロナウイルスに著しく感染しやすくなっている。死者数は欧米諸国の数分の1にとどまっているが、経済的にも社会的にも大きな代償の上に成り立っているだけに、この成功が続かないと懸念する根拠は十分にある。中国製ワクチンすら接種が進まず、数百万人が重症化や最悪のケースに至るリスクがある」
習氏が、欧米のmRNAを拒否したのは、中国製ワクチンが欧米製よりも優れていると宣言した手前、自らの権威に傷がつくというメンツ論であった。個人の思惑が先行して、多くの人々を犠牲にした。
(2)「習氏の支配欲は他の面でも大きな痛手をもたらす。国内の情報の流れに民間テック企業が影響力を持ちすぎているという危惧からか、これら企業を取り締まった。その結果、画期的なデジタル技術の構築力が損なわれ、国際的に投資家の信認も揺らいだ。中国の民間部門で最も効率的なセクターの一つで時価総額数兆ドルが消えた」
ITなどテック企業を抑制したのは、政敵である江沢民一派がテック企業の株主に潜り込み莫大な利益を得ることで、反習近平運動を始めないように先手を打ったことだ。「無軌道な資本の膨張抑止」は、後からとってつけた理由である。
(3)「外交面では、ロシアによるウクライナ侵攻開始のわずか3週間前に、習氏は中国とロシアの友好関係には「制限がない」と宣言した。欧米では習氏がプーチン大統領と同じく国際秩序の再構築を狙っているとの懸念が高まった。習氏は国内の官僚から助言を受けただろうが、同氏の強権主義的な性格、政治的、経済的支配の強化への欲求、強硬な外交姿勢が優先された。しかもこれは、習氏が昨年10月に最高指導部の政治局常務委員に側近を引き上げ、毛沢東後に続いていた常務委員会の総意による統治体制を捨てる前のことだ」
習氏は、プーチン氏と手を携えて自らの超長期政権を目指している。個人的にも、プーチン氏という存在が必要である。ただ、プーチン氏に失脚という事態が起こった時、習氏への逆風になることを覚悟する必要があろう。その意味で、プーチン氏との密着は習氏にとってリスクを増すであろう。
(4)「習氏への権力集中に伴う問題は23年に大きくなるはずだ。まず、慎重な準備もなくゼロコロナ政策を全面解除した結果、中国で100万人以上の死者が出る懸念が浮上している。ワクチン接種率が低い高齢者は、特に感染しやすい。混乱が生じても、政府は外国や国民からひた隠しにするだろう。これほどの方針転換は"皇帝"習氏しかできない。致死率の高い変異型に対しても習氏は中国全土、国境をまたぐ感染の急拡大を容認するのではないか。突然、検査の規模が大幅に縮小され、変異型を検出する力は弱まるはずだ。医療機関は重症患者を受け入れ始めているが、準備状況は危うい。19年末にコロナが発生した経緯から見て、中国が必要な情報を共有するのかは怪しい」
習氏の政策は、予見不可能になってきた。物事が、氏の思いつきで変わるリスクが高まっているからだ。これは、国民にとって常にブレーキを踏みながら進むという行動パターンを強いることになる。下線部のコロナ検査の大幅縮小によって、変異株を検出する力が弱まれば、新たな感染拡大につながる。
(5)「現在、文化大革命や大躍進政策の兆しはない。習氏が過激な政策を導入しようとしても、都市部の教育水準の高い中間層が同氏への数少ない抑止力の一つになる。だが、習氏は既に中国と国民に多大な犠牲を強いている。23年はいっそう犠牲が膨らむだろう」
都市部に大学卒業生が増えている。ただ、就職難で中間層を形成できず、一部は「寝そべり族」という無為・無抵抗の層になっている。この層が、社会変革という大きなうねりが起これば、立ち上がる可能性もあろう。
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