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ロシアは過去の戦争で、祖国防衛を守り抜き勝利を収めたと自信を見せている。確かに、その通りだが、それは侵略を受けた祖国防衛戦であった。今回のウクライナ侵攻は立場が逆転して、侵略する側である。過去の祖国防衛戦は、今のウクライナに該当しており、ウクライナ軍が必死の戦いをしているのは、皮肉にも過去のロシアの姿である。 

ウクライナ侵攻では、ロシアが西側に同盟国を持たない初めての戦いである。しかも、その西側から経済制裁まで受けており、武器弾薬の生産で大きな障害になっている。ロシアにとって、この戦いが極めて不利な状況にあることは紛れもない事実だ。勝利への展望がないままに戦いを続ける悲劇は、ロシアの経済的疲弊と国際的地位の激落をもたらすだけだ。一刻も早く、ウクライナ侵攻を止めなければ、ロシアの傷は永久に癒えないであろう。 

英紙『フィナンシャル・タイムズ』(1月17日付)は、「ロシア、勝利維持の道なし」と題する記事を掲載した。 

ウクライナの情報機関はロシアが今年、ウクライナに新たな攻撃をしかけるために、さらに兵を動員し軍の規模を200万人まで拡大する可能性があるとみている。ウクライナのゼレンスキー大統領は最近、ロシアが再び首都キーウ(キエフ)を制圧しようとするかもしれないと警告を発した。 

(1)「プーチン氏と彼の支持者は相変わらずロシア史を都合よく解釈している。ロシアは1812年のナポレオンによる侵攻と第2次大戦でヒトラー率いるナチスドイツによるソ連侵攻で激戦を強いられ大きな犠牲を払ったが、最終的には勝利を手にした。ただ、いずれも侵攻から自国を守る防衛戦だった。退却先がないと知っていたロシア軍は最後まで戦い抜いた。だが今回、祖国を守ろうとしているのはウクライナの方だ。しかも過去の大戦ではロシアは欧州の大きな軍事同盟の一部だった」 

ロシアは、歴史を自国に都合のいいように解釈しているが、それは歴史の教訓を正しく学ばない結果である。 

(2)「ロシア軍情報部の元大佐でロシア政府に近いストラテジスト、ドミトリー・トレーニン氏は最近書いた記事で「ロシアは歴史上、初めて西側に同盟国を持たない状況にある」と指摘した。それどころか反ロシアで結びついた勢力は欧州にとどまらない。同氏も「英語圏諸国や欧州、アジアなど米国を中心とする同盟各国の結束ぶりは過去にないレベルに達している」としぶしぶ認めている」 

ロシアが歴史上、「初めて西側に同盟国を持たない状況にある」との指摘は、ウクライナ侵攻でロシア最大の弱点になっている。この現実を認識すべきだ。核をちらつかせれば、それにたじろぐ相手ではない。 

(3)「根本には、ロシアが大国としての地位を既に失っているという事実を受け入れられないことがある。他の欧州諸国はロシアより早くこの現実を受け入れた。プーチン氏がいまだに固執する旧来の欧州の秩序は大国間の対立を軸に構築されていた。EUや北大西洋条約機構(NATO)という大きな傘の下で各国が協力し合うという新しいシステムを理解できない同氏は、ロシアを欧州大陸全体から孤立させてしまった」 

ロシアの現状は、一国でNATOに立ち向かっている形だ。NATOは、戦場に立たぬが武器弾薬を供給している。この戦いの帰趨は、すでに決していると言っていい状況だ。 

(4)「もしプーチン氏が、ロシアが超大国の1つ下に位置するレベルの国だと受け入れていたら、ロシアは中堅国として各国のパワーバランスを図るべく政治手腕を発揮する機会が何度もあっただろう。しかし、プーチン氏はそんな地位に甘んじることはできずウクライナに無理やり侵攻した。皮肉にもロシアは、その世界的地位をこの戦争でさらに失う可能性が高い」 

ロシアは、この戦いが終わった時に厖大な賠償金を科される。西側諸国に差し押さえられている外貨準備も賠償金の一部に回されるほか、経済制裁も継続されるだろう。ロシアが、「100年前の姿」に戻るというのは、決して過剰な表現ではない。 

(5)「ロシアが極めて劣勢に追い込まれたことで、同国の一部エリートらの間には一種のニヒリズム(虚無主義)が広がっており、彼らはテレビで核戦争やアルマゲドン(最終戦争)さえ今や現実になりかねないなどと述べたてている。ロシアの戦略家らが戦争を続けるべきだと主張するのは、勝利する見込みがあるからではなく敗北など考えることすら受け入れ難いからだ。(先の)トレーニン氏は先の陰鬱な記事で「理論上はロシアが降伏する選択肢はある」が、それは「国家の破滅的状況、予想される大混乱、主権の無条件の喪失」を必然的に伴うため受け入れられないと論じている 

この下線部分は、すでに「内戦説」となって報道され始めている。この危機的状況をどうやって防ぐかが問われている。中国やインドは、傍観していないでロシアを説得すべき役回りになっている。 

(6)「こんな結末を恐れるあまり彼(トレーニン氏)は、たとえ「長年」にわたり「大きな犠牲」を払う必要があってもロシアには「自国の主権と領土の一体性を守る戦闘国家」として戦い続けるしかもはや道はないと結論づけている。この血みどろの道を突き進むには「エリート階級の無条件の愛国心」が必要だとも指摘した。しかし、これは非常に奇妙な愛国心だ。祖国の貧困と孤立をさらに深め、独裁をさらに助長し、世界からもっと非難される残忍な侵略戦争に、ただ命を奪われるために同胞を送り込み続けたいとする愛国心を持つロシア人などどこにいるのか」 

ロシアにとって、真の愛国心とは何か。戦いを止めることだ。これが可能な人々は、獄窓にいるか国外へ脱出している。日本の敗戦時には、「天皇」という絶対的権力によって戦いを止めた。ロシアでは、その絶対的権力者が戦争継続の姿勢である。まさに、ロシア存亡の危機だ。