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韓国輸出の4分の1は中国向けである。これが、韓国外交を「二股」にさせた大きな理由だ。だが、肝心の対中ビジネスの全盛期は終わった。中国が、自給体制を整えており韓国品の輸入に依存しなくなってきたこと。また、米中対立の激化とともに、経済安保の重要性が主張されるにおよんで、半導体輸出に規制が掛かりそうな状況になってきたことである。

 

米国は昨年10月、中国に対する先端半導体装備の輸出を禁止。また、人工知能(AI)とスーパーコンピューターに使用される半導体輸出を制限する輸出規制措置を発表した。これに加えて最近、日本とオランダが半導体製造設備の対中輸出規制に合意したことで、韓国半導体輸出へ波及することが確実になった。

 

『日本経済新聞』(1月29日付)は、「韓中貿易、黄金期には戻れず」と題する記事を掲載した。筆者は、韓国KBフィナンシャル・グループストラテジスト ピーター・キム氏である。

 

尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏は2022年、米国との同盟関係の強化を掲げ、韓国大統領に当選した。投資家は尹氏の姿勢が中国を怒らせ、韓国経済に打撃を与えるのではないかと懸念していた。しかし、尹大統領は中国に対して予想外にソフトなアプローチをとっている。22年8月、ペロシ米下院議長が台湾などアジアを歴訪した際、尹氏が中国の反発を買いそうなペロシ氏との会談を拒否したことからも明らかである。

 

(1)「22年末に中国が「ゼロコロナ」政策を転換すると、経済再開の恩恵が韓国にも及ぶことを期待する人は多かった。しかし中国は今年1月、韓国人に対する短期ビザの発給を停止。韓国が中国に対して同様の措置をとったことに報復するためだった。両国の新たな対立がどこまでエスカレートするかはわからない。韓国が、在韓米軍による地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の設置に同意した2016年のように、韓国企業や製品に対する中国の不買運動に発展する可能性も懸念されている」

 

韓国大統領は昨年8月、ペロシ米下院議長との面会を見送った。中国を刺激しないという外交的な配慮であったが、その後も韓国への圧力を弱める兆しはみられない。中国の経済成長は鈍化し、韓国の対中貿易収支は22年57月に国交樹立以来の赤字である。韓国では、尊大にみえる中国への反発や警戒感も強まっている。米調査機関ピュー・リサーチ・センターの調査では、中国を「好ましくない」とする韓国人が80%にも達した。世論に極めて敏感な韓国政権は、親中路線を取りづらくなっている。中国は、過去の歴史経緯から韓国を「下に見る」傾向がある。韓国は、これに対して敏感に反応して「反中色」強めているところだ。

 

(2)「THAAD以前の10年間、韓国は中国との活発な貿易から果実を得ていた。しかし中国はミサイル配備を安全保障上の脅威とみなし、韓国への貿易制裁に踏み切った。特に不買運動の標的とされたロッテグループは、中国本土の事業からほぼ撤退した。同時にサムスンの携帯電話の売り上げなども激減した。皮肉なのは、こうした影響が文在寅前大統領の5年間の任期中にも及んだことだ。文氏は北朝鮮との平和を望むなど中国の思惑と一致していたが、韓国にほとんど経済的な利益をもたらさなかった」

 

文前大統領は「親中朝路線」を歩んだが、韓国にとって経済制裁を解除されることもなかった。韓国からの「ラブコール」が成果を上げなかっので、韓国も目を覚まさざるを得ない状況だ。中韓関係は、こうして次第に冷却化への方向へ向かっている。

 

(3)「さらにTHAAD以降、化粧品や自動車の輸出が後退した背景には、中国の自給自足体制の推進があったことも明らかになっている。いまや韓国の半導体産業は米国による対中輸出規制をめぐるジレンマにも直面している。韓国が対中ビジネスから恩恵だけを得られた時代の終わりを認識すべきである」

 

中国の半導体産業は、米国からの規制措置によって大きな制約を受けている。中国はこれまで、韓国へ米国主導の「チップ4」(米国・日本・台湾・韓国)へ参加しないように圧力を掛けてきたが、無駄なことになりそうだ。韓国は、安全保障で米国の傘に入りながら、米国と対立する中国へ便宜を図ることなど、常識的にもあり得ないことに気づいてきたのであろう。これまで、韓国「二股外交」が成立したのは、米中関係が対立していなかったという特殊状況があった結果であろう。そういう良き時代は去ったのだ。