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習近平氏は、国家主席へ就任して以来、「中華再興の夢」を高らかに宣言してきた。だが、昨年の総人口は減少に転じて、「未富先老」が明らかになった。「豊になる前に老いる」という、まことに皮肉な結果に終わったのだ。成長を急ぐ余り引き起した不動産バブルの結果である。バブルという「不労所得」を追い求め過ぎた代償であろう。

 

人口動態統計ほど、正確に一国経済の潜在成長率を示すデータは存在しない。中国が、こういう厳しい現実を知っていれば、今回のような結果にならなかったであろう。2011年に、生産年齢人口(15~64歳)比率は、ピークを打っていた。このことから早晩、人口減は想定できた筈だ。この貴重なシグナルを見落として、「一人っ子政策」に固執し過ぎたのである。自ら蒔いた種である。

 

『中央日報』(1月30日付)は、「中国の夢と中国の人口」と題するコラムを掲載した。筆者は、ユ・サンチョル中国研究所長・チャイナラボ代表である。

 

中国は「地大物博人多」の国だ。土地は広く、物産は豊富で、人は多いということだ。そのような中国の戦国時代の人口は2000万程度だったと推算される。その後、長い間5000万前後を行き来して明の時代に6000万を越えた後、清の時代に急増した。1724年1億、1812年3億、1901年には4億を突破した。1949年新中国建国当時5億4000万を記録したが、「人口は力」という毛沢東の言葉に力づけられて1982年には10億、そして2019年には14億を超えた。

 

(1)「永遠というものはないようだ。2021年14億1260万をピークに、昨年は85万減った。マイナス成長に転じたのだが、中国当局の予想を9年操り上げた結果だ。中国の人口減少は世界史的な事件だ。大きく3つのことを考えることができる。第一は、象徴的な意味で「世界最大の人口大国」というタイトルを喪失することになったという点だ。国連によると今年4月中旬にインドが中国を抜いて世界最大の人口大国になる。中国が「世界最大の開発途上国」あるいは「世界最大の消費市場」という修飾語もこれ以上有効ではなさそうだ」

 

毛沢東の「二代目」を自任する習氏は、毛沢東と同じような失敗をしている。人口統計に無頓着であったことだ。人口統計は、国家の基本力を示している。特に、合計特殊出生率(一人の女性が生涯に出産する子どもの数)は、重要統計である。中国当局は、国際統計でこのデータを水増しして公表してきた。事態の重大性を認識しながら、最高指導部へ報告しなかった「罪」は重い。

 

(2)「第二は、中国が享受してきた「人口ボーナス」が喪失し、これが中国経済に直撃を食らわすかもしれないという点だ。人口ボーナスは俗に「経済活動人口が多く高齢人口は少なく、労働力が絶えず流入する状況で貯蓄率が増加して経済が上昇するようになること」を指す。ところがこのような利点を中国がこれ以上享受するのは難しくなるということだ。大量の廉価労働力をテコに「世界の工場」を自負していた成長モデルもこれ以上作動しない見通しだ」

 

「人口ボーナス」(人口配当)とは、生産年齢人口比率が上昇していく過程を指す。この比率が下降に向かえば、「人口オーナス」(人口負担)と呼ぶ。現状は、「人口オーナス」である。歯車が逆回転している状況だ。

(3)「第三は、米国を追い越して世界ナンバーワンになるという「中国の夢」が水の泡になる可能性が高まったという点だ。労働力の減少により製造強国を建設して世界最強の中国を作るという習近平の野心が単なる夢に終わる公算が大きくなった。これに関連して日本経済研究センターの過去3年にわたる中国GDP予測が興味深い。2020年末、同センターは中国のGDPが2028年になれば米国を上回るだろうと考えた。2021年にはその時期を2033年に遅らせた。ところが昨年末の発表では中国が米国を超えることはないだろうと予測した」

 

中国が、米国経済を抜くことは不可能である。これは、人口統計から分っていたことだ。本欄は、その旨を早くから強調してきた。

 

(4)「中国人は、「まだ金持ちにもなっていないのに体はすでに老いてしまった」という意味の「未富先老」という言葉をため息まじりに言う。ところが今は、中国が米国を超える程まだ強くなっていないのにすでに衰退の道に入ったのではないかという「未強先衰」のため息が出てくるのではないだろうかと思う」

「未富先老」は個人レベルの話だが、「未強先衰」は国家レベルの状況を示す。中国が、世界最高の「強国」になる前に衰える(「先衰」)のである。中国が、米国よりも先に人口減社会に移行したのは、米国経済を抜けないという意味である。