中国は、個人の創意工夫で研究を推進できる環境にない。全て、共産党のリーダーシップの下で行なわれている。研究費の配分は、党内の序列によって決められることから、真に必要な部分に資金が配分されることはない。これが、西側諸国と完全に異なる点だ。西側では、個人の創意工夫が研究の出発点であり、社会が有用な研究と認めれば、資金が集まるベンチャー・キャピタル・システムが出来上がっている。こうした西側との違いが、中国の技術開発を阻害する背景だ。中国が、技術的先駆者になれないという主張が登場した。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月31日付)は、「中国が技術で先駆者になれない訳」と題する投稿を掲載した。筆者のシモーヌ・ガオ氏はジャーナリスト。ネット上で時事問題を扱う「ズーミング・イン・ウィズ・シモーヌ・ガオ」のホスト役を務めている。
中国は最近、半導体製造分野における米国との覇権争いで急に動きを止めた。米国は、昨年夏に成立した半導体投資を後押しする新法を通じて国内生産再建へのコミットメントを強化し、製造プロジェクトへの2000億ドル(約26兆円)近い民間投資を呼び込んだ。一方、中国は突如として、半導体産業への1兆元(約19兆1300億円)の投資を停止した。
(1)「昨年8月に発表された中国政府の報告書では、国家集成電路産業投資基金の丁文武・総経理を含む業界トップの多くを対象とした汚職調査が相次いでいることが明らかになった。業界で「大基金」として知られる450億ドル規模のこのファンドは、中国政府が半導体業界への巨額投資を管理するための公式な手段となっている。多数の企業に投資しており、投資先には、米国による制裁で打撃を受けている中芯国際集成電路製造(SMIC)や長江存儲科技(YMTC)の半導体大手2社が含まれる」
中国では、半導体企業投資のファンド(「大基金」)450億ドルが、汚職の温床になったとして捜査対象になった。こうして、半導体産業への1兆元(約19兆1300億円)の投資を停止した。
(2)「中国は今回の後退で、国際的に競える先端技術の構築を目指す、政府ぐるみのアプローチが失敗したことを暗に認めている。米国が先進的な半導体製造技術の対中輸出を禁じたことで、オランダや日本など米国の主要パートナー国は、そうした技術を中国に輸出できなくなった。これにより、発展し始めたばかりの中国の半導体業界は苦境に陥っている」
米国は、中国に対する先端半導体の製品・製造設備・技術の輸出と大幅に規制している。当の中国では、汚職問題がからんで政府補助が中断状況である。これにより、中国の遅れは決定的になってきた。
(3)「中国の野心的な技術面での取り組みが失敗しつつある理由には、もっと大きなものがある。共産主義体制によるイノベーション(技術革新)の抑制だ。中国では、すべての主要な資金が共産党によって管理・分配されている。トップクラスの科学者がキャリアアップして資金を得るためには、党の仕組みの中にいる必要がある。党での地位が上がれば上がるほど、受け取れる資金は増える。最近の汚職捜査では、「大基金」の主な関係者や、同ファンドから最も多くの資金を受け取っていた企業の幹部らの関与が明らかになった。これにより、ファンドの幹部たちがこれらの企業から賄賂を受け取っていた可能性があるとの臆測が生じている」
下線部は、重要な指摘である。共産主義が技術革新を抑制するという問題である。全て、中央集権下にあり、自由な研究を認めないことである。党内の序列によって決められており、補助金もこのシステムによって悪用されている。
(4)「中国当局による投資が中断される以前の段階では、半導体分野の新興企業のうち補助金を得ていたのは、対象候補を推薦・検証する業務を担当する地方政府当局者とコネクションのある企業だった。香港紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』の分析によれば、2021年1月から5月の間に1万5700社が中国半導体企業として新たに登録された。中国メディアの『星島環球』によると、建設、セメント業界から衣類、製薬業界まで多くの企業が少なくとも書類上は半導体メーカーへと業種を変更。その結果、プロジェクトが中断したり、閉鎖が頻発したりする状態となった」
下線部は、有名な話である。半導体補助金を狙って、半導体と無縁の企業が参入した。その数、なんと1万5700社にも。本来、あり得ない話である。
(5)「ファーウェイ創業者で最高経営責任者(CEO)の任正非氏は、公には新たな研究を奨励していたものの、プロジェクトが2年以内に目立った成果を上げられなかった場合は資金が打ち切られる可能性が高かった。そのため、ファーウェイが最も一貫してイノベーションを実現できたのは応用段階においてだけだった。同社は、すぐに利益を上げることのできるイノベーションには報償を与えるが、世界を変革するようなイノベーションにつながる可能性のある長期的研究は行っていない」
ファーウェイも2年間で研究成果が出なければ、そのプロジェクトは打切りなる。基礎研究は論外である。これが、技術盗用の温床になっている。こうした傾向は、ファーウェイだけの問題ではない。それは、共産党支配下の中国社会では普通のことだ。
(6)「中国のゴールは常に、最小のコストで最大の利益を生み出すことだ。夢と情熱は非現実的で高くつき、愚かでさえある。そんなものは捨て去るべきだというのだ。西側諸国が未来の姿を思い描き、創造する中で、中国が自由な発想を持つ人材を育てられなければ、同国は常に追う立場に置かれ、先駆者にはなれないだろう」
儒教文化では、科学技術を軽視してきた。この2000年余の歴史が、目先の利益だけを求める習慣を生み出したのだ。この桎梏からの脱却は、極めて困難である。
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