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習近平氏にとっては、台湾統一が最大の政治課題である。最終的には武力統一の方針を示して、台湾へ揺さぶりを掛けている。中国の武力行使は、米国シンクタンクによる机上演習によると中国海軍の全滅という結果になった。こうなると、ますます台湾との話し合い路線が必要になろう。 

当面のカギは、来年1月の台湾総統選である。ぜひとも中国との話し合い路線を主張する国民党を勝たせねばならない。その布石に、先に中国と国民党の間で会談が行なわれた。 

『毎日新聞』(2月18日付)は、「中国、台湾分断工作か 国民党を優遇 来年1月の総統選にらみ」と題する記事を掲載した。 

来年1月に見込まれる台湾総統選を見据え、中国の習近平指導部が働き掛けを強めている。中国と協調すれば平和と利益が得られるとのメッセージを積極的に発信しつつ、「台湾独立勢力」とみなす民進党の蔡英文政権への強硬姿勢は緩めていない。台湾社会の分断を図りつつ、有権者を対中融和路線の野党・国民党の側に引き寄せる狙いがあるとみられる。

 

(1)「国民党の夏立言(かりつげん)副主席が17日までの日程で訪中。中国側は10日、共産党政治局常務委員の王滬寧(おうこねい)氏(党序列4位)が会談に応じる形で夏氏を厚遇した。王氏は「台湾同胞の平和と安寧を我々ほど重視している者はいない。できる限り早く両岸(中台)交流を正常化させたい」と強調し、融和ムードを演出。夏氏は「交流と対話によって相互信頼を積み重ね、台湾海峡の平和を促したい」と応じた」 

国民党は、中国との融和路線を取っている。だが、台湾市民の感情を逆なでするような中国接近は反発を呼ぶ難しい立場だ。台湾市民は、「中国人」意識よりも、「台湾人」というアイデンティティを重視している。 

(2)「その3日後、早くも動きがあった。中国で対台湾政策を管轄する国務院台湾事務弁公室(国台弁)の朱鳳蓮報道官が13日に、台湾の農水産物の禁輸措置について解除を示唆したのだ。中国は2021年以降、安全性などを理由にパイナップルや特産果実「釈迦頭」、高級魚ハタなど台湾産の農水産物を相次いで禁輸し、蔡政権に対する事実上の制裁措置とみられてきた。15日には国台弁トップの宋濤(そうとう)主任が台湾の農漁業団体幹部と面会し、禁輸問題について「関係部門と調整し、積極的に解決する」と解除の意向を表明した。国台弁は「台湾の農漁民は国民党などのルートを通じて輸入再開を望む声を表明した」(朱報道官)とも述べており、解禁表明は、国民党に花を持たせた形だ」 

中国得意の経済制裁で相手を屈服させる戦術は古い。国民党は、中国へ膝を屈したイメージを与えると反発を受けるだろう。

 

(3)「習指導部は武力行使による台湾統一の選択肢を放棄していないが、基本路線は平和統一だ。中国と台湾の窓口機関が「一つの中国」で合意したとされる「1992年コンセンサス」を認めることを台湾との交流の前提条件にする。これを認めない民進党が16年から政権を握っており、容認の立場の国民党が政権に返り咲くことは習指導部としても歓迎だ」 

中国にとって、平和統一が最もコストの安い手法である。だが、「一国二制度」は香港で馬脚を現している。中国は、新しい「手法」をつくり出さねばならない。妙案はあるか。 

(4)「中国の融和姿勢の背景には、20年総統選での「失敗」がある。習氏は19年、台湾政策についての演説で「12制度」による統一を目指すと強調し、香港では民主派を弾圧した。こうした強硬な対応が台湾の幅広い層に「反中」の世論を生み、蔡総統の再選につながった。再び強硬な発言や不用意な圧力の強化で台湾の民衆を刺激すれば、民進党の支持拡大につながりかねない」 

中国は、ロシアのウクライナ侵攻を支持しているだけに、「次は台湾」というイメージをまき散らした。これが、台湾を必要以上に刺激している。

 

(5)「政権奪還を目指す国民党は、台湾海峡の現状を踏まえ「戦争のリスクを減らす」(朱立倫主席)などと有権者に対し「平和」を訴える戦略を取る。夏氏も王氏との10日の会談で、国民党が共産党との交流によって「平和と安定、繁栄と発展の黄金時代」をもたらしたと強調。対話を通じて台湾海峡の緊張緩和につなげる姿勢をアピールした」 

現実問題は、米中対立の激化で台湾が翻弄されていることだ。中国は、台湾を足がかりにして米国へ軍事対決するという構想を西側諸国へ植え付けてしまった。こうして、台湾問題は、米中覇権争いのコマになっている。先ず、中国が変わらなければ、台湾問題の平和解決はないであろう。カギは、中国の変化である。 

(6)「中国と国民党の動きに、民進党は神経をとがらせる。党主席の頼清徳副総統は15日、党の幹部会合で「(中国軍が台湾周辺に)侵入して騒ぎを起こしている今の情勢下で(中国との)対話は慎重にすべきだ。中国や国際社会に誤ったメッセージを伝えることになる」と国民党を批判。「台湾海峡の平和と安定を守ることは我々の主張だ。台湾人が子々孫々にわたり自由と民主主義の中で暮らせるよう、全力を尽くす」と訴えた」 

民進党は、中国従属ではなく台湾人の独立意識を重視している。国民党は、中国へ傾けば台湾人から見捨てられるという危うい立場だ。

 

(7)「総統選の行く末に影響を及ぼすのは中国の出方だけではない。中国と対立する米国の動きも重要だ。マッカーシー米下院議長が春に台湾を訪問するとの観測も出ており、仮に実現すれば反発した中国が台湾周辺での軍事活動をさらに強める恐れもある。連続2期目の蔡氏は憲法の規定で24年台湾総統選に出馬できず、民進党からは頼氏の立候補が有力視されている。国民党では侯友宜・新北市長や朱主席らの名が挙がっている」 

米下院のマッカーシー議長は、訪台へ強い意向を見せている。中国が、今回も大軍事演習を行なえば、来年の総統選は民進党候補に有利となろう。