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中国で最近、数万人の高齢者が街頭に繰り出して医療保険改革に抗議した。高齢者までがデモをする背景には、深刻な地方政府の財源難問題がある。これまでの莫大な費用を伴った「ゼロコロナ」政策の後、各都市の政府が財政支出引き締めへと動いているのだ。デモは、中部の湖北省武漢市と北東部の港湾都市である遼寧省大連市で行なわれた。高齢者中心の群衆が、数百人の警察隊とにらみ合う様子が動画に捉えられている。

 

『ウォール・トリート・ャーナル』(2月20日付)は、「国の高齢者デモ、山積する問題を象徴」と題する記事を掲載した。

 

中国で医療手当の削減を巡り最近発生した退職高齢者による抗議デモは、同国が抱える複雑に絡み合ったさまざまな問題を象徴している。高齢化や地方財政の逼迫、社会保障制度の不備、多額の債務などの問題だ。

 

(1)「デモの直接的なきっかけとなったのは、武漢市などの地方政府が推進する、医療補助の減額につながる医療保険改革だ。改革では、強制加入の貯蓄制度で個人口座から拠出された資金の一部が、公的な保険基金と一緒にプールされる。個人口座の余剰分の一部が公的な医療保険のために使われることになるが、高齢のデモ参加者は政府に貯蓄を奪われると感じている。中国では昨年、数十年ぶりに人口が減少に転じた。高齢化は急速に進んでおり、政府は政治や財政面でますます厳しい選択を迫られることが予想される。中国では強固な社会的セーフティーネットが構築されていないため、なおさらだ。個人が負担する医療費の割合は高く、多くの年金は微々たる額しか受け取れない」

 

高齢者は、政府の医医療保険改革で高齢者の個人口座の余剰分の一部が、公的医療保険に使われることに反対している。高齢者には、自分の貯蓄が他人の医療保険に使われるという感覚である。高齢者は、わずかな年金を貯めて大事に使っている。それだけに、怒りは大きいのだろう。

 

(2)「地方政府では厳しい財政状況が目立つ。土地売却収入は2022年に前年比23%減少し、ここ数年は新型コロナウイルス対策に絡む支出が膨らんだ。広東省では昨年のコロナ対策費が710億元(約1兆4000億円)に達した。中国は感染を徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」政策をあきらめ、不動産分野では締め付けを緩和している。ただ、当面は土地売却収入が以前の水準に戻ることはないとみられる」

 

地方政府は、財源難に陥っている。土地売却収入は、2022年に一昨年より23%も減少した。その上、ゼロコロナ経費が莫大な額に上っている。こういう懐事情により、「取れるところから取る」という当局の恣意性が、高齢者の個人口座を狙ったものだ。

 

(3)「地方政府傘下の投資会社「融資平台(LGFV)」を巡っては、国内発行の債券のうち約4兆5000億元が年内に満期を迎えるか、早期償還の対象となると格付け会社ムーディーズはみている。LGFVは地方政府が簿外で資金調達する仕組みだが、財務状況は常に不安定だ。LGFVによる土地購入が昨年は急増し、状況悪化を招いたとみられる。調査会社ギャブカル・ドラゴノミクスによると、LGFV債発行体の平均総資産利益率は22年前半に約0.4%となり、21年の0.75%から低下。だが、発行体が支払わなければならない金利は平均で4.3%になるという。ギャブカルによると、LGFVの民間債権者に対するデフォルト(債務不履行)は過去1年間に約166回起きている」

 

地方政府は、投資会社の「融資平台」(LGFV)に莫大な簿外負債を抱えている。1000兆円にも達すると推計されている。LGFV発行体の平均総資産利益率は、22年前半に約0.4%。発行体が、支払わなければならない平均金利は4.3%だ。0.4%の平均総資産利益率で、平均金利4.3%を支払える筈がない。かくてデフォルトになる運命だ。

 

(4)「今後も同様のことが繰り返されるかもしれない。S&Pグローバル・レーティングのシニアディレクター、ローラ・リー氏は「債務再編が少なからず発生する可能性がある」とし、「財政基盤が脆弱な地方政府と関連したLGFV」で特にその傾向が強まるとした。こうした「隠れ債務」に対し中国政府は監視や財政規律の強化を進めてきた。大規模な救済措置は避ける考えだが、成長を重視した以前のような政策に軸足を戻す姿勢を強めている。LGFVの間で破綻が起きれば、政府は難しい選択を迫られることになる」

 

地方政府は、隠れ債務の返済が不可能な事態に立ち至っている。こういう状況だけに、地方政府は、まさに「生きるか死ぬか」の境に来ている。高齢者の個人口座の余剰資金を狙う裏には、こういう財政切迫感があるのだ。

 

(5)「住宅市場では長期にわたり同じような力学が作用しており、状況は似ていると言える。昨年の不動産債務危機に匹敵する大規模な崩壊は起こりそうにない。それでも政府は今年、難しい判断が迫られそうだ。財政規律は重要なものの、住宅所有者だけではなく、増え続ける年金受給者を突き放すことは得策とは言えない。中国の消費拡大や「常態への復帰」に対する国内外企業の期待が大きいだけに、なおさらだろう」

 

住宅市場が回復して、地価も再び値上りに転じることは予想もできないことだ。不動産バブル崩壊とは、こういう惨憺たることを指す。中国でいま、それが始まっているとみるべきであろう。