EU(欧州連合)の欧州委員会は21年7月、35年以降の新車登録で、ゼロエミッション車(走行時に二酸化炭素などの温室効果ガスを排出しない車両)に限定する方針を示していた。この方針を最終決定する3月7日、土壇場で「待った」がかかったのである。
ドイツのフォルカー・ウィッシング運輸・デジタル相が当日、「“ゼロエミッション車にe燃料のみで走行する内燃機関車を含めない限り、法案を支持しない」と表明したためだ。e燃料とは、再エネ由来の水素を用いた合成燃料である。燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出するが、生産過程でCO2を利用するため、CO2の排出量と吸収量を差し引けば実質ゼロ。これだけでない。次のようなメリットも指摘されている。
e燃料は、既存のガソリン車やディーゼル車にも使えるのだ。ただ、製造効率が悪いため、生産コストが高くつくという問題が指摘をされている。ドイツの自動車メーカーは、このe燃料の利用を推進しようとしている。これによって、既存のガソリン車やディーゼル車の生産ラインを維持できので、肝心の雇用維持が可能になるのだ。
EUと言えば、EV推進のモデルとまで言われてきたが、e燃料利用による内燃機エンジンの「サバイバル」は現実化してきた。これが、日本の自動車メーカーにとって「福音」になるのは確実である。EVと内燃機エンジンの「二刀流」を模索してきたからだ。トヨタには、この動きがあるのだ。
『フィナンシャル・タイムズ』(3月9日付)は、「ドイツ、EUの内燃機関禁止案に急ブレーキ」と題する社説を掲載した。
2035年までに内燃エンジンを搭載した新車の販売を禁止するという欧州連合(E U)の野心的な計画は、EUの自動車産業をけん引するドイツの反対で土壇場で頓挫した。今週、EU閣僚理事会が承認すれば発効するはずだったが、無期限で延期されることになった。この一件は、低炭素社会への移行(グリーントランジション)に取り組むドイツ自身とEUの信頼性をも脅かした。この規制案は50年までにカーボンニュートラル(温暖化ガス排出実質ゼロ)を達成するというEUの目標のカギとなる施策だ。それが今、壁にぶつかってしまった。
(1)「気候変動の危機により、化石燃料からクリーンな代替燃料への転換がこれまでにないほどの規模と速さで求められている。それには最大の要因の一つを取り除く必要がある。環境を汚染する産業での雇用減少など、痛みを伴うトレードオフ(二律背反)は避けられない。自動車産業の場合、状況は厳しい。米フォード・モーターのトップは、内燃エンジンを廃止して電気自動車(EV)に切り替えると、雇用が約4割失われる可能性があると考えている。フォードは欧州で3800人の人員削減を発表したばかりだ」
内燃エンジンを廃止してEVに切り替えると、現在の自動車雇用は約4割が失われるという。e燃料を活用すれば、雇用を維持できてCO2を増やすことにはならないメリットがある。
(2)「ドイツでは、旧来の自動車産業が国内産業全体の売上高の5分の1を占めていることを踏まえると、市民生活が物価高騰で圧迫されている今、政治家がこの業界の雇用確保になぜ熱心なのかは容易に理解できる。ただドイツ政府が首を縦に振らなければ、EUの内燃エンジン搭載車の販売禁止案は効力を持たない。フェラーリの本拠地イタリアもドイツを支持している。ポーランドはすでに禁止案への反対を表明ずみで、ブルガリアは採決では棄権すると公言している」
内燃機エンジンは、ドイツが発祥である。それを量産化させたのが米国フォードである。ドイツで、内燃機エンジンへの郷愁が強い裏には歴史的背景がある。ドイツの他に、イタリア、ポーランドもe燃料に賛成していた。ブルガリアも採決では棄権してドイツなどに同調姿勢である。
(3)「ドイツは欧州委員会に対し、二酸化炭素(CO2)と水素でつくる「e燃料」を使う車は例外とするよう求めている。e燃料は通常のエンジンでも使えるため、ガソリン車メーカーなどにとっては頼みの綱となるかもしれない。しかし、うたわれているような万能薬ではない。高価で効率が悪く、たとえ技術的には気候中立でも、燃やせば化石燃料と同程度の二酸化窒素を排出するからだ。メーカー側も、バッテリー製造で遅れているとみられる部品大手のボッシュ以外は特にe燃料を推進しているわけではない。独ポルシェは看板車種の「911」には内燃エンジンを使い続けたいと考えている。フェラーリはe燃料の使用を検討中としながらも、まだ正式に取り入れてはいない」
EVと内燃機エンジンを比較すれば、後者のほうが「ドライブ」では楽しみがある。今後、この問題を巡る議論は続くであろう。


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