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中国の全人代が終わって、習体制3期が始動した。注目の経済官僚はいずれも、大臣級を意味する共産党中央委員会メンバーや中央候補委員でもない「無肩書き」ということになった。中国人民銀行総裁と財政相は、予想外の留任である。事前情報では人事交代であった。それが留任とは、土壇場で何があったのか。経済が予想外の混乱状態であり、人事交代するリスクを計算したのだろう。経済実態は悪いのだ。

 

『日本経済新聞 電子版』(3月15日付)は、「中国経済閣僚は異例の『大臣未満』、李強首相も執行役員」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の中沢克二氏である。

 

全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が3月13日に閉幕した後、内情をうかがい知る関係者から嘆きが聞かれた。「大事な中央銀行の中心人物や、経済・財政の実務を担う重要閣僚が、『大臣級』に満たないクラスばかりになってしまった」「それを束ねる新たな総理(首相)も企業人事に例えるなら(ナンバー2の)副社長ではない。いや、取締役でさえない『執行役員級』かもしれない」。国家主席として3選を果たした習近平(シー・ジンピン、69)が仕切る現政権の主要な金融、経済、財経系の幹部、閣僚らが、前例なき軽量級の布陣となったからである。

 

(1)「典型的なのは、中国人民銀行の総裁に異例の形で再任された易綱の人事である。中国の中央銀行である人民銀は、組織の上では国務院(政府)が直轄する国家金融機構だ。中国の人事上、「閣僚級」を意味するのが、共産党中央委員会メンバーである200人強の中央委員である。その下に中央委員に昇格する可能性がある170人強の中央候補委員がいる。 つまり、中国を本当の意味で動かしているのは、合計380人弱の人物らである。それでも日本の閣僚数に比べ格段に多い」

 

人民銀行総裁は、交代と予測されてきた。それが、留任である。経済実態が悪化しているので、過去の事情に詳しい易綱氏が再任されたもの。経済の実態が極めて悪化している証拠であろう。

 

(2)「易綱は現在、その上位380人弱にさえ入っていない。2022年10月の第20回共産党大会で、中央候補委員から外されたからである。それでも今回、予想を覆す異例の再任となった。しかも、年齢は今年35日で満65歳になっている。閣僚級の年齢制限に従えば、引退するのが常道だった。そればかりではない。財政を担う重量級の経済閣僚だったはずの財政相の扱いも軽くなっている。劉昆は22年党大会で中央規律検査委員会メンバーからもはずされたのに、この全人代で再任となった。年齢は、易綱よりさらに年上の66歳である」

 

財政相も党内での肩書きはない「無役」である。経済実態悪化で、敢えて留任したのであろう。今にもひっくり返りそうな中国経済である。暴風の中では「船長を変えない」という掟に従ったのであろう。

 

(3)「もう一つの例は、中国経済を支えるインフラの要である鉄道、道路などを管轄する交通運輸相、李小鵬(63)の再任だ。昨年、中央委員から降りたのに、なぜか続投となった。李小鵬は、1989年に起きた天安門事件の際、学生弾圧の先頭に立ったとされる当時の首相、李鵬の子息である。習と同じ革命幹部の子息を指す「紅二代」「太子党」の典型的な人物といえる。異様な経済関係閣僚の布陣である。世界も見つめる中国経済の再浮揚の行方。それを最大限、重視して考え抜かれた人事になっていないのは明らかだ。付け焼き刃、その場しのぎといってもよい」

 

天安門事件の際、首相を務めた李鵬の子息である李小鵬も昨年、中央委員ポストから降りたが、交通運輸相留任となった。党内無役が閣僚留任である。習氏は、自分だけ3選を実現しながら、同じ身分の「紅二代」「太子党」を斬り捨てることができなかったのだろう。恨みを買うからだ。

 

(4)「そうなった理由はいったい何か。目的はいったいどこにあるのか。関係者の分析は様々だが、共産党内の事情に詳しい面々の解説は、次の3つに代表される。

1)「(新首相の)李強(リー・チャン、63)は、副首相の経験もなくいきなり国務院トップになった。いわば素人だ。もし全ての重要な経済閣僚も初心者に変わると、経済政策の一貫性が失われて大混乱しかねない。そこで今回は安定重視の再任が多かった。過渡期ともいえる」

2)「いやいや、安定を優先したというのは表向きにすぎない。中央銀行総裁、大事な金融、経済、財政に関係する閣僚が、大臣クラスではなく、中央候補委員ですらない人物になっているのだから、それを束ねる国務院自体の権限が実質的に縮小されたに等しい」

3)「これで習を頂点とする共産党中央が全てを決める『集中統一指導』の体制が、ほぼ整ったことになる。党主導の組織改革も今後、進んでいく。人民銀の政策に対する党の介入も強まるだろう」

 

ここでは3つの理由が挙げられている。それぞれ説得力はあるが、習氏が何を狙っているのか、真意は不明である。私は、経済危機の進行が最大の要因と見る。