サムスンは、中国陝西省に半導体メモリー工場を経営している。ただ、米政府が中国の先端半導体の製造関連技術について輸出規制したことで、サムスンは追加投資を事実上制限された形になった。半導体工場は、生産品種をグレードアップしないと採算が取れなくなることから、サムスンはいずれ中国撤退を迫られる。
サムスンは、こうした地政学的リスクを乗り越える意味でも、韓国国内で集中生産する体制を発表した。今後20年間で総額300兆ウォン(約31兆円)を投じ、ソウル市近郊に受託生産の新拠点を建設すると15日に表明した。巨額投資をテコに台湾積体電路製造(TSMC)に対抗する狙いもある。米中対立が先鋭化するなか、政府と連携した自国内の半導体供給網の構築を目指すのだ。
『日本経済新聞』(3月17日付)は、「半導体供給網、確立へ道 関係修復で対中包囲」と題する記事を掲載した。
日韓両政府の歩み寄りは経済安全保障上、半導体の重要性が高まっていることも背景にある。韓国には半導体の売上高で世界首位のサムスン電子と同4位のSKハイニックスがあり、日本には素材や装置に強みのある企業が多い。半導体産業が米中対立の焦点となる中、相互補完関係にある日韓の協業が供給網(サプライチェーン)の再構築のカギを握っている。
(1)「サムスンは15日、今後20年間で総額300兆ウォン(約31兆円)を投じ、ソウル市近郊に半導体の新拠点を設けると表明した。同社幹部は「(日本は)半導体製造の技術革新に不可欠なパートナー」と話す。日系も含めたサプライヤー企業の集積を促し、先端半導体の研究開発から量産までを担う一大拠点の整備を急ぐ」
サムスンは、日本企業との関係強化を狙っている。日本が、サムスンのライバルである台湾TSMCと密接な関係を結んでいるので、日本の関心を集めたいという目的だ。特に、半導体素材では、日本製を使用することで歩留まり率が圧倒的に高まるので、生産コストの切り下げになる。TSMCの高収益を支えている理由の一つは、日本製素材の使用にもあるのだ。
(2)「日本政府は、2019年7月に半導体生産に不可欠な「フッ化水素」や「高性能レジスト(感光剤)」などの韓国向けの輸出の審査を厳しくした。韓国半導体メーカーは低純度のフッ化水素など韓国製素材を一部で代替導入したが「先端素材では日本製が不可欠なのは変わらない」(韓国半導体産業協会)状況だ。貿易統計をみると、幅広い素材・装置の輸出金額はこの間も大きく落ち込まなかった。東京応化工業やレゾナック・ホールディングス、ダイキン工業などは韓国で先端素材を増産し、サムスンなどとの取引関係を深めている」
韓国が、先端素材では「日本製が不可欠なのは変わらない」と指摘するのは、製品歩留まり率の違いからだ。同じ成分の素材でも、日本製と韓国製は異なる。半導体製造工程が、日本製に馴染んでいるので、韓国製を受け付けないという微妙な違いがある。科学的には究明できない「何かが違う」としている。
(3)「日韓の協業は、米国の思惑にも合致する。米中対立が激しくなる中、米国は半導体の生産や調達を友好国などに移す「フレンドショアリング」を進めようとしている。経済産業省内には「輸出管理の問題があるうちは韓国との連携は打ち出しにくい」との声が根強かった。経産省は16日、フッ化水素など3品目の厳格な審査を緩和すると発表した。一部の措置は残るが、今回の見直しが契機になり得る。日韓は半導体などの供給網の強化に向け、経済安全保障の対話の枠組みも創設する」
下線部では、日韓が経済安全保障の対話づくりを始める。文政権時のように意思疎通を欠くような事態を避けるために常時、話し合えるチャネルをつくる。
(4)「水面下では日本と米国、韓国、台湾の4つの国・地域の半導体分野の強みを生かして協力を進める「CHIP(チップ)4」と呼ぶ構想がある。対中国の半導体包囲網の構築に弾みがつく。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権も前政権時代の素材・装置分野での国産化政策を継承している。外交面での日韓関係の雪解けが産業界に好影響を及ぼすには時間がかかるとの見方もある」
下線部は、日韓の外交関係が今後も「平常時」を保てるかという懸念でもあろう。文政権では、日韓慰安婦合意を反古にするという事態があった。この例から言えば、今回の徴用工問題も左派政権になれば、ひっくり返される危険性がある。
米国では、ユン政権が後4年続くことに期待をかけている。前米NSC東アジア担当部長で米戦略国際問題研究所(CSIS)日本部長のクリストファー・ジョンストン氏は、次のような見立てだ。「朴大統領の任期終了間際だった慰安婦合意と対照的に、今回は韓国の次期大統領選までに時間がある」と指摘する。日本との安保協力に積極的な尹政権のもとで腰を据えて成果づくりを進める余裕がある、としているのだ。4年間の時間をかければ、日韓関係は落ち着くだろうという期待である。『日本経済新聞 電子版』(3月17日付)が報じた。
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