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中国地方政府の主要財源は、約4割を占める土地売却収入である。不動産バブル崩壊で、土地売却収入は急減している。1~2月は、前年同月比29%もの減少になった。地方政府は、土地売却収入でインフラ投資や人権費などを捻出してきた。その頼みの綱が細っているのだ。

 

中国経済で、最大の波及効果を持つのは不動産開発である。GDPの最大3割が住宅関連産業である。鉄鋼・セメントなど広範囲にわたる。それだけでない。地方政府の土地売却収入は、主要財源になっている。こうして住宅産業不振は、民間産業だけでなく地方政府のインフレラ投資へも波及している。その意味で、土地売却収入の動向で中国経済の基底部分を占うことができるのだ。

 

『日本経済新聞 電子版』(3月17日付)は、「中国地方政府、土地収入3割減 12月回復遠く」と題する記事を掲載した。

 

(1)「中国財政省が17日発表した2023年1〜2月の財政収支によると、土地使用権の売却収入は前年同期比29%減少した。22年通年の減少率(23%)から拡大した。新築住宅販売は底打ち感が出ているが、在庫が積み上がっており不動産会社の新規開発はマイナスが続く。地方政府が依存する土地収入の回復は遠い。一般会計に相当する一般公共予算の収入は前年同期を1.%下回った。税収が3.%減ったためだ」

 

中国には、不動産税(固定資産税)が存在しない。土地売却収入を地方政府の主要財源にしているからだ。不動産税が存在しないことは、住宅保有コストがゼロという意味である。住宅が投機対象になったのは当然の結果である。世界広しと言えど、不動産税が存在しない国は中国ぐらいであろう。「富める者はますます富む」という、社会主義国家であり得ないことが起っている。極めつけは、相続税がないことである。

 

この状態で、「共同富裕」論を掲げている。所得格差の是正であるが、中国の「ジニ係数」(所得不平等を示す)は、米国よりも高いという異常状態である。「中国式社会主義」とは、国民に資本主義社会以上の不平等を押し付ける社会である。この裏で、悠々と生きていける階層は、共産党員のなかでも古参党員の子孫である。いわゆる「紅二代」「紅三代」とされる層である。多くの住宅を持っており、不動産税も相続税もかからない夢のような境遇にある。

 

(2)「中国の土地は国有制で、地方政府が土地の使用権を不動産企業に売る。景気対策などで税源が細る地方政府は、売却収入への依存を強めてきた。22年の売却収入は前年比2割超減少したが、それでも国全体の税収の4割に相当した。12月の新築住宅販売面積は前年同期比0.%減だった。政府の規制強化で住宅市場は低迷が長引いたが、下げ止まり感が出てきた。ただ、2月末時点で新築物件の在庫は前年同月末より15%も多く、17年8月以来の高い水準だ。不動産会社は在庫の圧縮が進まなければ、新規開発に着手しにくい。用地の取得にも及び腰で、地方政府の土地収入も増えにくいままだ」

 

中国では、土地が「打ち出の小槌」になってきた。GDPを押上げるには、不動産バブルを引き起せば手軽に実現できた。土地国有制が魔法の杖になったのだ。だが、この便法を余りにも利用した結果、中国全体が抱える債務総額は対GDP比で295%(22年6月)にも達している。この過剰債務をどのようにして返済していくのか。中国には、その返済計画は存在しない。政治権力で、債権者へ一方的に債務繰り延べを呑ませる方式を編み出している。地方政府の「融資平台」(金融と事業を兼務)では、元金返済は20年後という気の遠くなるような事案が出ている。

 

中国政府は、再び地価が上がるという予測を捨てている。そうでなければ、前記のような元金返済20年後という非常識な再建案が登場するはずがない。中国は、昨年から人口減社会に突入した。ますます人口高齢化が進むので当然、貯蓄率はさらに低下していく。過剰債務を抱えて、細っていく貯蓄で返済するという、身につまされるような厳しい社会が訪れるのだ。中国は、この状態に耐えるほかない。「未富先老」という将来が待っているのだ。