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韓国左派の人々は、大統領が旧徴用工賠償を国内問題として解決したことに猛反発している。怒り狂っているという表現すら妥当する状態だ。日本は、この問題が1965年の日韓基本条約で解決済みという国際法の立場を堅持しているから、韓国の要求する「謝罪」などあり得ないことである。韓国では、こういう国際法という視点が欠如しており、国家間の問題を個人間問題とすり替えているところに最大の見誤りがある。 

日本は、大統領夫妻の訪日を心から歓迎した。各新聞やテレビ番組は、16日の一日中、大統領夫妻の訪問について詳細に伝えて、「日韓関係の悪循環を断ち切ることができる契機が用意された」と評価した。韓国左派は、この中に日本の真の姿勢を読み取るべきだろう。

 

『ハンギョレ新聞』(3月18日付)は、「尹大統領の『グランド譲歩』と『外交の私有化』」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のパク・ミンヒ論説委員である。

(1)「苦々しい侮辱を感じた。16日、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領と岸田文雄首相の首脳会談は、「日本の完勝」を「韓日関係の未来志向的改善」として取り繕うための舞台だった。岸田首相は「歴代内閣の歴史認識を継承する」との一言で、歴史に対する反省を消した。尹大統領が韓日間のすべての懸案を一気にやりとりすると公言してきた「グランドバーゲン」ではなく、日本が必要なすべてのことを差し出した「グランド譲歩」だった」 

韓国左派メディアは、民族主義の立場を固守しているが、外交関係を律するのは国際法ルールである。徴用工賠償判決は、この国際法ルールから外れた民族主義によるものだった。尹大統領は検察時代、2012年に出された最初の大法院判決(原告側の主張を認めた)を出した当時の大法院の同僚判事に、判決経緯を聞いたことがある。それによれば、判決を出した判事が退職寸前であったので、軽い意味で同意したという事情が明らかになった。深い意味があったのではない。

 

(2)「北朝鮮の核問題、台湾海峡の危機など安保状況の悪化と米中覇権競争の激化にともない、国際秩序が揺れ動く現実のなかで、韓日の協力は必要だと思う。しかし、韓国の世論を絶望させ、日本は「韓国が約束をきちんと守るか見守る」と高圧的に見下ろす「屈服外交」のずさんな土台の上で、どうやって韓日の公正かつ安定的な協力を実現できるだろうか。日本の右翼があれほど望んでいた「これ以上謝罪を求めない韓国」を、韓国大統領が自ら作ろうとしている」 

韓国は、自国中心に世界が回っていると信じている。まさに、儒教の世界観である。韓国が、自由世界の一員であり、米国に防衛されているという現実を自覚する必要がある。それには、国際法という共通ルールに従うことが不可欠だ。民族主義という「お山の大将」感覚では、米国に守って貰えないのだ。この厳しい現実を忘れてはいけないだろう。

 

(3)「韓日の歴史問題を解決しない限り、米国と共に進めないという焦りも原因だ。中国をけん制しようとする米国の戦略のもとでは、韓米日の軍事・経済安保協力が極めて重要だが、韓国はここに参加しなければ捨てられるという不安に駆られ外交を展開しているわけだ。それに尹大統領の「外交の私有化」も加わった」 

ロシアのウクライナ侵攻後、中朝ロは一体化している。北朝鮮の違法なミサイル実験は、国連常任理事会で中ロによって守られ、非難決議もできない状況である。この事実を承認するならば、韓国は日米韓三カ国の安保協力体制に入らざるを得ないであろう。「外交の私有化」ではなく、正しい外交権の行使である。

 

(4)「今回の訪日は、4月26日の米国国賓訪問に向けた布石だ。大統領室と外交部は1月から韓米首脳会談の日程を決めることに力を入れ、米議会の上下院合同演説の実現に力を入れてきた。尹大統領は韓米同盟70周年を迎え、米議会で「自由主義陣営の指導者」として記憶に刻まれる日を夢見ている。尹大統領は5月、日本の広島で開かれる主要7カ国首脳会議(G7サミット)への招待も狙っている。支持層に好まれる「歴史的場面」を演出するためには、韓日関係をきちんと交渉する時間などなかったわけだ」 

韓国は、文政権による「親中朝路線」によって、自由世界から見れば「はぐれカラス」になっていた。その韓国を、元の群の自由世界へ引き戻そうとしているのが尹大統領である。4月の訪米で尹氏が、米議会で演説できれば韓国国民として肩身が広くなろう。なぜ、そういう気持ちにならないのか。それが不思議である。

 

(5)「韓国は、世界で製造業5位、半導体・バッテリー生産12位、大規模な軍隊と防衛産業を持つ国だ。米国も日本も、中国を牽制し先端技術のサプライチェーンを再編するなど戦略目標を実現するためには、韓国の協力が欠かせない。このような韓国の力を最大限テコにして同盟に苦言を呈し、緻密に交渉してこそ、韓国の未来を守ることができる。ところが尹大統領は、「我々が先に屈服すれば、その国が自ら呼応してくれるだろう」という幻想を抱いて、外交交渉の原則と力量を損なっている。韓国の未来を傷つけながら、「自分だけが未来志向的」というはなはだしい勘違いをしている」 

韓国に、米中デカップリングを止める力はない。韓国得意の「二股外交論」は幻想そのものだ。そうであれば、米中デカップリングの進行において、韓国経済をどのように守るかが緊急課題である。韓国経済は、原料・素材部門を持たない典型的な加工型貿易である。日本は川上から川下へと一貫生産体制を構築している。韓国経済は、日本経済との協力体制を組むしか生きられない運命なのだ。韓国は、日本に対して謙虚に振舞うべきだろう。