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米国バンガードは、最強の投資信託として有名である。低コスト運用を武器にしており、他社の追随を許さない存在だ。バンガードは、2018年に中国へ進出したが、2年前に中国での投資信託免許取得計画を撤回した。中国の将来性に問題点を見出したからだ。今回は、中国から完全撤退することになった。

 

一見すると、中国は資産運用事業で魅力的な存在に映る。だが、将来の中国経済の成長性低下を考慮すると、貯蓄が減って低コスト運用が不可能と判断したのであろう。高齢化の進行による貯蓄率の急速低化を見抜いたのだ。

 

『ブルームバーグ』(3月22日付)は、「バンガード、中国事業閉鎖とアント合弁からの撤退を計画-関係者」と題する記事を掲載した。

 

米資産運用会社バンガード・グループは残っている中国事業の閉鎖を決めた。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。同社は2年前、中国で投資信託の免許取得を目指す計画を撤回していた。中国の資産運用市場の規模は27兆元(約515兆円)である。

 

(1)「情報は非公表だとして関係者らが匿名で語ったところでは、バンガードは上海部門を閉鎖する意向を中国政府に伝えた。さらに同社は、中国フィンテック企業アント・グループとのロボアドバイザー合弁事業からの撤退も計画しているという。関係者によると、運用資産7兆1000億ドル(約930兆円)のバンガードは、中国から完全撤退することになる。同社はかつて中国事業拡大を計画していた」

 

バンガードは、2018年に中国の投信運用へ新規参入した。当時、中国の投信運用企業と比べ、「コスト面で明確な優位」に立つことを目指した。中国で、同社の指数連動型ファンドが受け入れられるまでには時間がかかるかもしれないが、中国市場がより効率的になり、安定的運用である投資の魅力が高まると予想した。

 

だが、こうした前提が崩れたのだ。中国の人口高齢化が急速に進むことから、貯蓄率は急激に下がることを見抜いたのである。バンガードは、最低の資産運用コストで顧客に報いる経営方針であるゆえ、これが実現不可能と見たに違いない。低コスト運用という「看板」に傷がつくことを恐れ、2年前に投信事業の申請を取下げたのであろう。そして今回は、全面的な事業撤退という決断に至ったと見られる。中国の投信事業に、将来性がないという最終判断である。

 

(2)「中国の景気回復や年金改革で、資産運用業界の見通しが改善する中、なお中国事業拡大を急ぐブラックロックやフィデリティ・インターナショナルなどの競合企業にとってバンガードの撤退は教訓となる可能性がある」

 

バンガードは、世界最大規模の投信運用会社である。そのバンガードが、人口減に突入した中国は、低コストでの投信運用が不可能という判断を下した。これに対して、ライバル企業はこれからどのような判断をするのか。バンガードの決断が、影響を与えるかどうかである。

 

ここで、2年前にバンガードが投信免許申請を取下げた背景を見ておきたい。

 

『ブルームバーグ』(21年3月16日付)は、「米バンガード、中国事業で予想外の方針転換 投信免許取得目指さず」と題する記事を掲載した。

 

米資産運用会社バンガード・グループは中国で投資信託の免許取得を目指す計画を撤回し、現地従業員を削減する。

 

(3)「バンガードの発表資料によれば、同社は中国フィンテック企業アント・グループとのロボアドバイザー合弁事業の構築に焦点を絞る。中国で完全保有の投信会社を持つことはバンガードにとって今後数十年の成長を目指す上で鍵を握る目標と考えられていただけに、今回の決定は予想外。同社はアジア事業の縮小を続けている。昨年は日本と香港から撤退し、中国政府関係の投資家に運用資産を返還した」

 

バンガードは、2020年に日本と香港から撤退した。この背景には、合計特殊出生率の低下がある。日本も香港も低かったので、将来性を見限ったものだ。合計特殊出生率の急低下は、人口高齢化=貯蓄率低下を意味する。中国は、2020年の国勢調査で初めて合計特殊出生率が1.30(世銀データでは1.28)と発表した。それ以前は、1.60と発表しており、バンガードはこれを真に受けていたのだ。現実は、人口動態の急悪化が起こっていることに気づき、2022年に投信事業を諦めたのであろう。すべては、中国の高齢化が急スピードで進んでいることが理由と見られる。