ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、日本が3回目の世界制覇を成し遂げた。これは、スポーツの世界で起こったことだけでなく、日本全体が過去30年間「彷徨の旅」から眼を醒まして、次なるステージへ向かう予兆と見たい。
日本が誇る総合商社5社は今、一斉に国内事業への再開発に向けて国内回帰している。総合商社と言えば、海外が活躍の主力舞台である。だが、地政学的リスクを考えれば、日本国内の眠れる資源の再開発こそビジネスに適うという視点だ。その一つが、洋上発電への取り組みである。すでに秋田県能代市沖合で昨年末に、大規模洋上発電が操業を開始。これから、日本国内はもとより、アジア地域への普及を目指して動き出す。英国政府も提携を申込んできたほどだ。
これ以外にも昨年、日本が先端半導体製造企業「ラピダス」を設立した。周回遅れの日本半導体が一挙に、世界最先端に立つ。27年から操業開始だ。これは、日本再生の起爆剤になる。岸田政権が進める地域再生の柱は、半導体を利用した産業の振興である。総合商社は、この辺りの状況変化を読み取っているのであろう。お膳立ては整った。WBCで大谷選手をはじめとする各選手の活躍は、日本復興への手がかりになろう。
米『ブルームバーグ』(3月23日付)は、「WBC制覇、日本はソフトパワーで勝ち抜け」と題するコラムを掲載した。
日本の過去30年間は停滞や衰退、国際的な影響力低下というイメージで語られることが多い。しかし、大谷翔平選手がワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で圧倒的な存在感を示すなどスポーツは例外だ。
(1)「米国生まれのスポーツである野球の世界大会WBCで、侍ジャパンは3度目の優勝を果たした。だが、日本と同じようにトップクラスのプロ選手を送り込み真剣に大会に取り組む米国チームと、日本代表が対戦するのは、おそらく今回が初めてだっただろう。ブルージーンズやウイスキーと同様、野球もまた、日本が発祥の地を超えていくことになるのかもしれない。わずか四半世紀前に野茂英雄氏が米大リーグに挑戦してから、ロサンゼルス・エンゼルスに所属する二刀流の大谷選手を「史上最高」の野球選手とみるアナリストもいる」
日米決戦は、手に汗握らせる大接戦であった。日本の勝利は、20年前には想像もできなかった。それが現実になったのだ。だが、日本選手は謙虚に振舞った。これが、さらに勝利を引き立たせた。
(2)「中国の習主席がロシアのプーチン大統領と会談するタイミングで、G7サミットに招待したウクライナのゼレンスキー大統領と握手を交わしことも岸田首相にプラスに働くだろう。米国のエマニュエル駐日大使は、岸田首相が「あらゆる場所の人々のためにより明るい未来」を求めているのに対し、習主席は「自由の灯を消そうとしている」とはっきり対比させた。これも日本の役割が国際的にいかに拡大しつつあるか物語る。スポーツ分野での成功が伝えるのは、決して変わらないと不当なレッテルを貼られている日本の新しい現実だ」
日本も敗戦から80年近く経ち、外交とスポーツの両面で世界から注目される存在になった。外交とスポーツは、似た側面を持つ。それは、相手国へ好印象を与えて自国の理解度を高める効果である。WBCの日本勝利は、世界中に日本の好イメージを残してくれた。スポーツ・パーソンは、外交官の役割を果たしている。
(3)「中国の習近平国家主席は自国のサッカーW杯出場に加え、中国でのW杯開催、そして優勝を目標に掲げる。しかし、約10年前に示されたこうした目標のいずれも達成できていない。カタールやサウジアラビアが世界的チームを所有することで影響力を買おうとしたり、人権問題を「スポーツウォッシュ」したりすることには理由がある。スポーツは強力な外交手段であり、ソフトパワーの勝利が一段と重要になっているためだ」
スポーツウォッシュとは、興奮と共感と感動を呼ぶ大規模スポーツ大会のもたらすソフトパワーをテコにして、開催地に都合の悪い事実を隠そうとする行為である。北京五輪は、新疆ウイグル族の弾圧事件をもみ消す狙いも指摘された。スポーツウォッシュである。
(4)「スポーツ分野での成功は、ただではない。過去15年で日本のスポーツ予算は倍になった。国民がより長くより健康でいられるようにすることが明確な目標で、医療費が急増する高齢化社会では必要不可欠と見なされている。そうした厳しい状況にあっても、大谷選手ら国民的ヒーローが教えるのは、日本が末期的衰退に陥っているというストーリーとは相いれない自らを信じる力だ。WBCの決勝に先立ち、大谷選手はトップに立つために米国の有名選手への憧れを1日だけ捨てようとチームメートに呼びかけた。日本に必要なのはまさにこうした姿勢だ」
日本では、野球の母国・米国選手への憧れが強い。だが、この米国と戦うには、憧れを一時封印して堂々と戦うことだ。大谷選手は、選手に潜む憧れを封印して戦うべく鼓舞した指揮官の発言である。日本は、一連の大谷発言から大きな勇気と指針を貰った。
コメント
暗いニュースばかりの今日この頃、老いの身にも生きていることの素晴らしさを教えて貰いました。
国と国との外交も、このように有って欲しいものですが、この夢ばかりは叶わないでしょうね。
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