テイカカズラ
   

韓国尹(ユン)政権による旧徴用工賠償解決策は、左派の猛烈な反対運動を引き起している。特に、最大野党「共に民主党」代表の李在明氏が、背任・収賄の容疑で在宅起訴になって、一段と反日運動に力を入れているところだ。

 

韓国左派にとっても、この解決策をひっくり返しところで先行きの展望がある訳でない。日韓関係はさらに悪化し、韓国が西側諸国から外交的に孤立するリスクを高めるだけである。となると、左派はどこかで反対運動を沈静化させなければならないのだ。そのきっかけが、岸田首相の「シャトル外交」訪韓である。夏頃と予想されているが、岸田訪韓は旧徴用工賠償で大きなカギを握っている。

 

『日本経済新聞 電子版』(3月24日付)は、「元徴用工問題で韓国の『ちゃぶ台返し』はあるのか」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙編集委員の峯岸博氏である。

 

韓国政府が6日に、元徴用工問題の解決策を発表してから、尹氏の初来日まで一連のイベントが終わった。日韓最大の懸案は解決策の履行に焦点が移った。日本には韓国側の「ちゃぶ台返し」を警戒する声がなお聞かれるが、果たしてどうか。

 

(1)「尹氏が、2027年5月までの大統領の任期中に、自ら合意をほごにするとはまず考えられない。万が一、解決策が頓挫する場合があるとすれば、韓国内で反対論が沸騰して実行できなくなるか、尹氏の次の政権で葬られるかのいずれかだろう。発表直後に韓国内で実施された主な世論調査は、週刊誌「時事ジャーナル」(賛成37.%、反対59.%)、韓国ギャラップ(賛成35%、反対59%)、KBSテレビ(評価する39.%、評価しない53.%)など。いずれも反対(評価しない)が賛成(評価する)を上回っている」

 

世論調査では、賛成論4割弱で反対論6割弱である。反対論が上回っている。理由は、日本企業が資金提供しないことと謝罪のない点を上げている。

 

(2)「これらの数字には別の解釈も成り立つ。韓国では歴史問題について、日本=加害者、韓国=被害者という想定で「100%日本が悪い」ととらえられるのが一般的だった。韓国ギャラップの質問も「日帝(=日本帝国主義)強制動員被害を第三者が弁済する方策は韓日関係と両国の国益のため賛成」か「韓国政府の方策は日本の謝罪と賠償がなく反対」のいずれかを尋ねていた。KBSも同様だ。このような聞き方は回答にバイアスを与えかねないのに、各調査で解決策への肯定的な評価が30%台半ばから後半に達した。これは「それなりに高い数字」(日本の外務省幹部)だと受け止めることもできよう」

 

世論調査での設問が、二者択一という反対論を誘導し易い点に注意する必要がある。設問の仕方を変えれば、反対論が減るという面もあるのだ。日本の世論調査でも同じ傾向が認められる。調査側が、反対論を多くしたい意図であれば、そういう設問になるのだ。

 

(3)「尹政権が逆風を受けているのは間違いないが、大きな打撃になっているわけではないようだ。韓国ギャラップが10日に発表した尹氏の支持率は34%(不支持率58%)で、前週比2ポイント減にとどまった。17日発表の支持率は33%(不支持率60%)だった。韓国政府の損得勘定からみても、ちゃぶ台返しは考えにくい。もし4年後に誕生する韓国の次期政権が解決策をほごにしても、ひとえに韓国の国内問題として、自身の手で新たな対策を講じなければならなくなる」

 

尹氏の支持率は減っているが、「激減」という状態ではない。今後、「ちゃぶ台返し」が起こるとすれば、これまで以上の日韓関係悪化を招くことは必定だ。韓国国民は、それに耐えられる覚悟があるかを問われている問題でもある。

 

(4)「相手国の首脳に伝えた政府の解決策を、後に覆せば国際的な信用が傷つく。日韓慰安婦合意について、大統領選の最中から「再交渉が必要だ」と主張していた韓国の前大統領、文在寅(ムン・ジェイン)氏は最終的に「政府間の公式合意」だったと認めざるを得なくなった。今回の日韓首脳会談に合わせて創設が決まった両国の経済界による「未来パートナーシップ基金」には日本側も経団連などが資金を拠出する。基金の行方には不透明な部分も残るが、経済分野を中心とする共同事業や若手人材の交流を促す取り組みなどにあてられるため、韓国側がこれを否定するのは難しいだろう」

 

両国の経済界による「未来パートナーシップ基金」は、双方が1億円を負担して両国の交流促進をはかる。若者の留学も含まれているのだ。この具体的内容がはっきりすれば、理解も深まるであろう。

 

(5)「日本が、5月に広島で開く主要7カ国首脳会議(G7サミット)に尹氏を招待し、その数カ月後の夏ごろに首相が訪韓するアイデアも浮上している。韓国では、24年4月の総選挙(一院制の国会議員選)に向け、事実上の選挙戦が熱を帯び始めているころだ。総選挙で尹氏を支える保守系与党が敗れれば、尹政権の求心力は一気に低下する。その先にある27年大統領選まで見据え、岸田氏は尹政権を戦略的にアシストするのか。尹政権にとっても、日韓関係の将来にとっても首相の訪韓は大きな意味を持つ」

 

岸田首相は、「シャトル外交」で訪韓が決っている。夏頃に実現と予想される。この岸田訪韓が、どのような効果を上げるかである。両国の未来への夢を語り、韓国国民の人心を掴めるかだ。