EU(欧州連合)の主要機関は昨年10月、2035年にガソリン車など内燃機関車の販売を事実上禁止することで合意した。二酸化炭素(CO2)を排出する乗用車と小型商用車の新車はEU内で売れなくなることが確定したのだ。しかし、大逆転が起こった。温暖化ガスを排出しない合成燃料の利用に限り、内燃機関車の販売が認められることになった。
EUは、EV(電気自動車)を普及させるべく、内燃機関車の販売中止を模索したが、EV推進に伴う雇用問題発生と電池へ使用する稀少鉱物資源開発による自然前破壊などの関係が浮上したと指摘されている。こうした副作用問題にからみ、温暖化ガスを排出しない合成燃料の利用が現実解決策として登場したのであろう。
『日本経済新聞 電子版』(3月25日付)は、「EU、35年以降もエンジン車販売容認 合成燃料利用で」と題する記事を掲載した。
(1)「欧州連合(EU)の欧州委員会とドイツ政府は25日、2035年以降も条件付きでガソリン車など内燃機関車の新車販売を認めることで合意した。「e-Fuel(イーフューエル)」と呼ばれる温暖化ガスを排出しない合成燃料の利用に限り販売が認められる。欧州委員会上級副委員長らが同日、ツイッターで表明した。電気自動車(EV)化で先陣を切ったEUの政策方針が大きく転換する」
今回の決定は、事前に報道されていたこともあり、衝撃波は小さくなっている。英国『フィナンシャル・タイムズ』(3月9日付社説)は、辛辣な批評を下した。「これがまさに自動車関連法案で起きた「衝突事故」というものだろう。2035年までに内燃エンジンを搭載した新車の販売を禁止するという欧州連合(EU)の野心的な計画は、EUの自動車産業をけん引するドイツの反対で土壇場で頓挫した」としている。
確かに、ドイツの反対によって路線を修正した。ただ、合成燃料で新たな二炭化炭素を排出しないことは確かだ。ただ、EV1本に絞って自然環境を守る「パンチ力」に水を差した形だ。
(2)「EUは22年10月、35年に内燃機関車の新車販売を事実上禁止することで合意。その後はEVや水素を使う燃料電池車といったゼロエミッション車のみの販売を認めることにしていたが、フォルクスワーゲン(VW)やメルセデス・ベンツグループなど自動車大手を抱えるドイツ政府が合成燃料の利用を認めるように求めていた。イタリアや東欧などでもドイツの意見に賛同する動きがあったが、フランスは合成燃料の利用に反対していた。イーフューエルは二酸化炭素と水素でつくる合成燃料。燃料として利用する際に温暖化ガスを排出するが、生成過程で二酸化炭素を利用するため温暖化ガスの実質的排出はゼロとみなされている」
内燃機関車の使用承認によって、これまでの自動車産業の雇用が維持できるメリットは大きい。失業者を抱えてのEV化促進では、EVユーザーも目覚めが悪いであろう。環境面で、実質的にマイナスにならないとすれば、ドイツの主張にも一理はあるのだ。
(3)「欧州委員会のティメルマンス上級副委員長は、同日「自動車における合成燃料の将来的な使用について、ドイツとの合意を見いだした」とツイッターに投稿した。ドイツのウィッシング運輸・デジタル相も同日、「手ごろな価格の車の選択肢を持ち続けることで、気候変動対策への欧州の立場は守られる」と発信した」
ドイツは、EUの盟主である。EU経済を引っ張るドイツで、EV化に伴い失業者が増えたのでは、EU経済全体にも大きく影響する。ここは、現実的な解決策が求められたのであろう。環境保護派にとっては、良いニュースでない。
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