北京の日本人ビジネスコミュニティで、重要なポジションにあるとされる50代の男性が、国内法(反スパイ法)違反容疑で拘束された。中国当局は、拘束理由を説明していない。かつて同様の容疑で拘束・逮捕され収監された人物によると、容疑内容は食事の際に北朝鮮の話を質問しただけという。その時の食事相手が、密告したと言うから、中国社会には至るところに「罠」が仕掛けられている。危険ゾーンになった。
『日本経済新聞 電子版』(3月25日付)は、「北京で50代邦人男性拘束 日系企業幹部、国内法違反で」と題する記事を掲載した。
日系企業幹部の50代の日本人男性が3月、北京市で当局に拘束されたことが25日わかった。中国当局は国内法に違反したと主張している。日本政府は早期の解放を中国政府に求めている。日中関係筋が明らかにした。
(1)「日本政府は、在中国日本大使館を通じて領事面会や関係者との連絡などの支援を試みている。現時点で面会はできていない。中国側は男性の拘束に至る経緯について日本側に十分に説明していないとみられる。中国は2014年以降、反スパイ法や国家安全法の制定を通じ国内の統制を強め、外国人を厳しく監視するようになった。その後、今回を除き少なくとも16人の邦人がスパイ行為に関わったとして拘束されたことが判明している」
中国は2014年以降、反スパイ法や国家安全法の制定を通じ国内の統制を強めている。だが、それ以前から外国人への警戒感は極めて強かった。電話盗聴は当たり前であったのだ。日本の有力都市の上海駐在員は1990年代、盗聴前提で日本へ中国の不便な部分を伝え、現地での業務が遂行できないので引揚げると連絡した。そうしたら、上海市担当者が飛んできて直ぐに改善したという。盗聴の結果だ。
日本メディアの中国特派員の苦労話も読んだことがある。中国当局から濡れ衣を着せられないように、公共交通機関では鞄を常に手に抱えて移動したという。これは、車中でうっかり居眠りでもしていると、その隙に鞄へ機密資料を忍び込ませておき、逮捕するという「汚い手」を使うからだ。驚くべき手を使って、スパイ容疑者に仕立てる凄腕なのだ。陰謀渦巻く中国で、外国人が安全に生き延びるのは極めて難しい。
中国は、スパイ行為を摘発するための「反スパイ法」を改正する。現行法よりスパイ行為の定義を広げ、国家の安全や利益に関わる情報を取ったり漏らしたりする行為に幅広く網をかけるのが特徴とされる。あいまいな規定も多く、当局による恣意的な運用が懸念されるのだ。
『日本経済新聞 電子版』(1月13日付)は、「中国、スパイ行為の対象拡大 資料やデータに幅広く網」と題する記事を掲載した。
2022年12月までに2回の審議を終え、可決する段階にある。反スパイ法は14年の施行以来、初めての改正。これまで同法関連で少なくとも16人の日本人が拘束され、改正案が施行すれば取り締まりがさらに強化されそうだ。中国の公務員や国有企業職員がさらに萎縮し、外国人との交流に影響が出る事態も懸念される。
(2)「改正案は、「国家安全や利益にかかわる文書、データ、資料、物品」をこっそり探ったり、提供したりする行動を「スパイ行為」と定めた。現行法は「国家機密」の提供に絞っていた。どこまでが国家の安全や利益にかかわる内容なのか定めはなく、不明確さはぬぐえない。中国で事業展開する外資系企業が競合相手となる中国国有企業の情報収集をする場合も、スパイ行為に認定されるリスクがある」
問題は、「こっそり」と重要な国家の安全に関わる文書、データ、資料、物品を探り出す行為がスパイ行為とされる。こういう規定だと、メディア取材は極めて危険になる。個別取材は、スパイ行為と紙一重になるからだ。
日本には中国人スパイが、1000人単位で潜伏していると言われる。だが、肝心の強力な取締法が存在しない。日本では中国にスパイを自由にやられているのだ。日本人は、中国でちょっとした言動でも収監される。余りにも不公平な扱いである。日本では、戦前の苦い経験で「スパイ取締」が、日本人の言論弾圧に利用されることを警戒している。
(3)「摘発機関である国家安全当局の権限も大幅に強めた。スパイ行為の疑いがある人物の手荷物検査をできるようにした。国家の安全に危害を加える可能性がある者の出国を禁じる権限も与えた。スパイ行為の疑いがある個人や組織が利用する「電子機器や設備、プログラムやツール」も調査できるとした。会社や個人が所有するパソコンやスマホ、インストールしたアプリなどにも捜査の手が及ぶ可能性がある」
下線部は、中国によって日本企業のビジネス情報を抜き取ることに悪用される危険性が高い。これでは、もはや安心して公正なビジネスは不可能になってくる。現地駐在員の安全を考えれば、「利益より人命優先」という時代になってきた。
コメント
コメントする