あじさいのたまご
   

米国は半導体武器に外交戦

いずれ中国から撤退の韓国

中国は半導体で手痛い打撃

米後援で復活の日本半導体

 

半導体が、戦略物資であることを改めて印象づけている。米国が発祥である半導体産業は、1991年のソ連崩壊後にコスト削減を狙って生産拠点を世界へ広げた。これにより、米国内の生産シェアが急速な低下に見舞われた。米国は、現在の米中対立をきっかけに、半導体技術を武器にして中国を包囲する体制を築き上げようとしている。その狙いは、ほぼ完成した段階だ。

 

米国バイデン大統領は、上院議員時代から外交問題に精通し、8年間の副大統領時代の経験を基にして、素早い半導体の中国包囲網を立ち上げた。中国が、ゼロコロナ政策で「籠城」していた間に、半導体の世界地図は大きく塗り変わったのだ。

 

最大の変化は、半導体で凋落した日本が再び、最先端半導体で世界トップへ踊り出ようとしていることである。1980年代後半に半導体世界シェア50%を握っていた日本が、米国との半導体摩擦で米国の術中に嵌められ、その後のシェアは大きく後退した。現在は10%程度にまで凋落している。その日本が、米国IBMと技術提携して最先端半導体(2ナノ以下)へ進出すべく、国策会社「ラピダス」が北海道で新工場を建設する。2025年に試作品、27年に量産化体制を樹立する。素早い復活劇である。

 

米国は半導体武器に外交戦

米国は、これまで半導体を「武器」に使って外交戦を切り開いてきた。最初の相手が日本である。米国は、GDPで迫り来る日本に対して、半導体規制と急速円高への煽動によって日本を突き放した。今度は中国が相手である。対日本と同じ半導体戦略を用い、米同盟国を結束させ、中国の先端半導体製造を窮地に追込もうとしている。米国の外交戦略は、海洋国家特有の手法である同盟国を束ねることだ。誰も反対できない、民主主義という「価値観」が旗印になっている。

 

半導体による中国包囲網には、関係国が米国、日本、韓国、台湾、オランダと5ヶ国に過ぎないことで、結束しやすいことが背景にある。米国、日本、オランダは、半導体製造装置で寡占状態を維持する。この三カ国は、中国への先端半導体装置輸出を不可能にさせた。

 

韓国と台湾は、半導体生産で抜きん出た存在である。だが、半導体製造装置や半導体素材を生産していない弱点を抱える。その中で唯一日本は、製造装置・素材・加工という全分野を擁している国だ。かつて半導体50%シェアを握った日本は、こうした潜在力が未だ健在なのだ。韓国が、旧徴用工賠償を国内で解決して、日本へ急接近している裏には、日本の半導体総合力への魅力がある。この問題については、後で取り上げることにする。

 

米国は、国内で半導体を生産する企業に補助金を支給する。これは「アメ玉」である。だが、補助金を支給された企業は、中国で先端半導体生産について制約条件がつく。「ムチ」も用意されているのだ。これが、半導体中国包囲網の中身である。先端半導体製造装置については、米・日・オランダによる輸出禁止令がすでに出されている。

 

米商務省が、半導体法ガードレール(投資制限装置)規定を3月21日に発表した。要約すると、次のような内容だ。10年間に生産能力が5%以上増えない限り、技術のアップグレードを許容する。これを越える生産能力の拡大投資は、10万ドル以上が禁止される。技術開発でウェハーあたりのチップ数が増えることは生産能力拡大とみなさない。この半導体法ガードレールが、日進月歩の半導体産業にとって大きな障害になることは明らかだ。

 

韓国半導体企業は、これまで中国で数兆円規模の投資をしてきた。この巨額投資が、これからは大きな制約を受けることで、経営上の負担となろう。いずれは、中国半導体工場を中国へ売却して引揚げる事態も想定されるのだ。

 

いずれ中国から撤退の韓国

サムスンは3月15日、こうした米国半導体法のガードレールによる中国投資への制約を忌避すべく、韓国国内でこれまでにない大規模投資計画を発表した。今後20年間で総額300兆ウォン(約31兆円)を投じ、ソウル市近郊に受託生産の新拠点を建設すると発表した。サムスンは、半導体工場として韓国国内のほかに米国に2拠点、中国に1拠点を構える。今回、新拠点を自国に整備する背景には、米中対立の影響が大きいと見るべきだ。

 

サムスンにとっては、国内4カ所目となる半導体生産拠点は、ソウル近郊の龍仁市に710万平方メートルの敷地を確保。2026年に着工し、29年ごろの稼働を目指すとしている。その後も、受託生産とメモリーの先端半導体を量産する工場を計5棟建設する計画である。

 

サムスンは、この大計画を実現する上で、日本との関係強化を最も重視している。半導体製造装置や素材の供給面で、日本企業との関係を蜜にすることが不可欠であるからだ。サムスンにとって永遠のライバル企業は、台湾のTSMCである。このTSMCは、日本の半導体製造装置や素材のメーカーと共同研究を行なっている。それだけに、この日台共同研究の成果が、TSMCの業績に反映されることは間違いない。製品歩留まりで、TSMCがすでにサムスンを大幅に上回っており、これも両社の業績格差に現れている。(つづく) 

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