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EV(電気自動車)は、地球に優しいとされるが泣き所もある。衝突事故で電池に少しでも傷が生じれば、使用不能になる「キワモノ」であるのだ。損保会社は、衝突のEVをほぼ「全損」扱いにしており、EV保険料も高くなるのだ。EVユーザーやこれから購入する向きは、知っておくべき知識のようだ。

 

『ロイター』(3月25日付)は、「電池にかすり傷で全損も、エコには程遠いEV保険事情」と題する記事を掲載した。

 

電気自動車(EV)の多くは、事故によりバッテリーに軽微な損傷があっただけでも修理や評価が不可能になる。保険会社としては、たいした距離も走っていない車両を全損扱いとせざるをえない。すると、保険料は高くなり、EV移行のメリットも薄れてしまう。そして今、一部の国ではこうしたバッテリーパックが廃棄物として山をなしている。これまで報道されていなかったが、想定されていた「循環型経済」にとって手痛い落し穴だ。

 

(1)「『EV購入の動機は持続可能性だ』と語るのは、自動車リスク情報を扱う調査会社サッチャム・リサーチの調査ディレクター、マシュー・エブリー氏。「だが、ちょっとした衝突事故でもバッテリーを廃棄せざるをえないとすれば、EVはあまりサステナブルとは言えない」。バッテリーパックのコストは数万ドルに達することがあり、EV価格に占める比率は50%にも至る。交換するのは不経済である場合も多い。フォードやゼネラル・モーターズ(GM)など一部の自動車メーカーは、バッテリーパックを修理しやすいものにしていると話しているが、テスラは、テキサス工場で製造する「モデルY」について逆の戦術を選んだ。構造材化された新たなバッテリーパックは、専門家に言わせれば「修理可能性ゼロ」だ」

 

EVは、少しの衝突事故でも電池を廃棄するとすれば、環境に優しい持続的自動車とは言えない。テスラの「モデルY」は、電池が構造と一体化されているので取り外しが不可能という。少しの事故でも廃車だ。テスラは、コスト半減でEV「330万円」を目標にする。一方、修理不可能という現実が待っている。

 

(2)「テスラなどの自動車メーカーがもっと修理しやすいバッテリーパックを製造し、バッテリーセルに関するデータに第三者がアクセスできるようにしない限り、EV販売台数が増えるにつれて、ただでさえ高い保険料は上昇を続け、衝突事故後に廃車となる高年式車は増えていく――これが保険会社や自動車産業の専門家の見方だ。アリアンツ・センター・フォー・テクノロジーでマネージングディレクターを務めるクリストフ・ラウターワッサー氏の指摘によれば、EV用バッテリーの製造においては化石燃料車の製造よりもはるかに多くの二酸化炭素が排出され、何千マイルも走行しなければ、そうした追加の排出量は相殺できないという。「たいして走りもしないうちに廃車にしてしまえば、二酸化炭素排出量におけるEVの利点はほぼすべて失われてしまう」とラウターワッサー氏は言う」

 

EV用バッテリー製造では、ガソリン車製造よりもはるかに多くの二酸化炭素が排出される。EVは、何千マイルも走行しなければ、こうした追加の排出量は相殺できない。EV電池が、ちょっとした衝突でも使用不能に陥るのは最大の環境負荷だ。

 

(3)「大半の自動車メーカーはバッテリーパックを修理可能としているものの、バッテリーに関するデータへのアクセスを提供する意志のあるメーカーはほとんどないようだ。EU圏では、すでに保険会社やリース会社、自動車修理工場が、自動車メーカーを相手に、利益率の高いコネクテッドカー(ネットに接続される車)に関するデータへのアクセスをめぐる争いを展開している」

 

EVメーカーは、バッテリーに関するデータを開示していない。これが、保険会社やリース会社、自動車修理工場との紛争を引き起している。

 

(4)「前記のクリストフ・ラウターワッサー氏は、争点の1つがEV用バッテリーのデータへのアクセスだと述べる。アリアンツでは、バッテリーパックに傷があっても内部のセルは無事である可能性が高い事例を確認しているが、診断データがないため、そうした車両も全損扱いにするしかないという。なお保険会社と自動車産業の専門家によれば、EVは最新の安全機能を搭載しているため、これまでのところ従来タイプの車に比べて事故の確率が低くなっているという

 

EVメーカーは電池情報を開示していない。この結果、電池の表面に傷があっても内部のセルは無事である可能性もあるものの、情報不足で修理できず全損になる。壮大な無駄を作っているのだ。

 

(5)「EV用バッテリーの問題が明らかにしているのは、自動車メーカーが喧伝する環境に優しい「循環型経済」に潜む落し穴だ。英国の解体事業者最大手サイネティックのマイケル・ヒル事業部長は、同社ドンカスター工場では、火災リスクを避けるための点検を行う「アイソレーション・ベイ」に収容されるEVの台数が過去12カ月間で急増しており、3日で12台程度のペースだったのが、1日最高20台にまで上昇していると話す」

 

EVは、循環型経済のエースである。だが、肝心のバッテリーは衝突事故で修理不可能という事態に陥っている。「テスラの構造的バッテリーパックは、何かあったらスクラップ直行だ」と指摘されている。テスラ車に潜む意外な落し穴である。