ロシア国内は、ウクライナ侵攻1年が経ち戦況がはかばかしくないことから、底流には批判的ムードが高まっている。政府高官の中には、国外逃亡を計る気運も出ているという。これを回避するには、高官の海外逃亡を未然に防止するのが最善と判断し、パスポートを没収している。この動きは、地方公務員や民間人にも広がっている。
『フィナンシャル・タイムズ』(4月3日付)は、「ロシア、政府高官のパスポート没収 国外逃亡を防止」と題する記事を掲載した。
ロシア保安当局は、プーチン体制で情報漏洩や国外逃亡への懸念が高まっているとみて、海外渡航をさせないように政府高官や国営企業幹部のパスポートを没収している。ロシアによるウクライナ侵攻が続くなか、保安当局は政府内の海外渡航の要件を厳しくし、一部の著名人や元高官に対してパスポートなど渡航関連書類の引き渡しを求めている。
(1)「このような圧力の高まりは、ロシア大統領府と旧ソ連時代の国家保安委員会(KGB)の後継機関であるロシア連邦保安局(FSB)が国内の民間人エリートによる忠誠心に深い疑念を持っていることを映している。民間人エリートの多くは、個人的にはウクライナとの戦争に反対しており、生活スタイルへの影響にやきもきしている」
治安取締機関のロシア連邦保安局は、国内の反戦世論の盛り上がりを防ぐべく、民間人エリートの動向にも注意している。
(2)「ドミトリー・ペスコフ大統領報道官は、ロシアが「センシティブ」な分野で働く一部の人々に対して渡航制限を強化したことを認めた。同氏はフィナンシャル・タイムズ(FT)に「海外渡航には、より厳しい規則がある。ある部分では正式に、またある部分では特定の従業員に関し、特定の判断で決まる」と語った。「特別軍事作戦の開始以来、この問題により多くの注意が払われている」と指摘。旧ソ連時代から、中級の国家機密にアクセスできる政府高官は、省庁や企業に設置された「特別部門」にパスポートを預けることが求められてきたという」
元政府高官や企業の幹部らによると、旧ソ連時代に保安当局が政府高官にパスポートを預けさせることはほとんどなかったという。現在は、ソ連時代よりも統制を厳しくしている。
(3)「ロシアが、2014年にクリミアを侵攻した後、この状況が変わった。保安当局が米国や英国などへの渡航について警告するようになった。関係者によると、22年のウクライナへの全面的な侵攻以降は、渡航制限がより広範に適用され、国家機関に所属する個々の保安担当者の対応に大きく依存するようになった。このため、国家機関によって保安対策は異なる。中堅クラスの人物さえも海外渡航を控えるよう求められるところもあれば、高官に問題のない範囲内で海外渡航の包括的な許可を与えているところもある」
ロシアのクリミア侵攻後、政府高官などの米英などへの渡航制限がかかるようになった。
(4)「関係者によると、ある国営の大手事業会社の幹部は、正式な許可なく首都モスクワから車で2時間以上の移動を禁じられているという。また、FSBの当局者が、過去に国家機密にアクセスしていた元政府高官に対し、パスポートの引き渡しを求めたケースもあるという。さらには国家機密に一度もアクセスしていない人であっても同様の対応の場合があったと、事情に詳しい関係者は指摘している」
国営企業の幹部も、許可なくモスクワから2時間以上の移動を禁じられている。元政府高官にもパスポートの引き渡しを求めているほどだ。
(5)「ロシア中央銀行の元職員であるアレクサンドラ・プロコペンコ氏は、パスポートの制限は現在、機密情報を取り扱うための人物調査を受けた人以外にも広がっていると述べた。同氏は「保安当局者らは今、特定の人々のところに来て『赤い民間人パスポートを提出してください。祖国の機密情報にアクセスしたことがあるからです。あなたの動きを管理する必要がある』と告げている」と述べた。プロコペンコ氏は国家機密やスパイ行為、国家反逆に関する法律の改正により、ロシアの保安機関はルールを独自に解釈する自由度を確保したと説明した」
現在は、民間人も幅広く網が掛けられ、パスポートの没収が行われている。国内情報の漏洩を抑えようという狙いだ。
(6)「プロコペンコ氏は昨年の侵攻後、中央銀行を辞め、現在はドイツ外交問題評議会の客員研究員を務めている。「基本的にいかなる情報であっても秘密とみなされるため、内部のFSBの当局者があなたは機密情報を持っていると言い始めている。それは何か。なぜ秘密なのか、そして誰が秘密と決めたのかは誰も分からない」とプロコペンコ氏は語った。ロシアの有力紙コメルサントによると、少なくとも7つの地方が地元の公務員に海外渡航をしないように強い勧告を出したという」
地方公務員まで、渡航禁止すべくパスポートの没収を行っている。国家機密漏洩防止の目的である。暗い時代になった。パスポートが戻されるのは、いつになるのか。


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