テイカカズラ
   


ウクライナ軍による反攻作戦は、慎重な構えを見せている。現在は、「小手調べ」程度だ。ウクライナ軍が、勝利を確信するまで火蓋をきらない背景には、最大支援国である米国の大統領選が来秋あることだ。米国の次期大統領が代わるような事態になると、従来通の支援を受けられなくなるリスクが生まれる。それを、避けなければならないのだ。

 

現に、次期米大統領選に立候補意思を表明したトランプ氏が今月10日、大統領に当選した場合のウクライナ支援の是非に触れ、「約束はしない」と明言を避けている。これに対して、ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、「米大統領選の来秋までに我々が勝利を収めている」と信念を述べた。いずれにしても、ウクライナ軍の反攻作戦の戦果が、米大統領選へ影響することは避けられないであろう。

 

『日本経済新聞』(5月12日付)は、「米共和党、衝突する4派閥 ウクライナ支援の行方左右」と題するコラムを掲載した。筆者は日経本社コメンテーター秋田浩之氏である。

 

米欧の軍事専門家らによれば、ウクライナの反転攻勢には当面、3つの展開があり得る。

 

(1)「最も望ましい楽観シナリオはロシアが強制併合した南部・東部の4州を、ウクライナがほぼ解放するというものだ。これにより、ウクライナ軍は14年にロシアに併合されたクリミアを孤立させ、奪還への道筋を敷くこともできる」

 

ウクライナ軍の勝利ケースは、ロシアが強制併合した南部・東部の4州を奪還することだ。これによって、クリミア半島を孤立させロシアを和平交渉へ引き出す狙いだ。

 

(2)「逆に悲観シナリオは、ウクライナがさほど多くの領土を奪還できないか、ロシア軍に現状よりも押し返されてしまう筋書きだ。専門家らの間では、いずれの可能性も排除はできないが、「確率は高くない」(元米軍幹部)との見方が多い。いちばんあり得るとみられているのが、中間的なシナリオだ。ウクライナは南部・東部の占領地の一部から、ロシア軍をさらに追い出す。だが、22年2月23日の状態を回復するまでには至らない展開である。楽観シナリオが望ましいのは言うまでもないが、今の分析をみるかぎり、過剰な期待は禁物といえるだろう。では、中間シナリオの場合、その先の展開はどうなるのか」

 

悲観的シナリオは、反攻作戦が余り戦果を上げられないケースである。これは、現状から見て可能性は極めて低い。中間的なシナリオは、ウクライナ南部・東部の占領地の一部から、ロシア軍をさらに追い出す、というもの。現実には、上記3ケースのどれに落ち着くか。

 

(3)「最大の変数になるのが、米国のウクライナ支援の勢いがどこまで続くかだ。米欧諸国の中でも、米国の軍事支援は突出して多い。ドイツのシンクタンク、キール世界経済研究所によると、22年1月24日からの約1年間で、米国の軍事支援は466億ドル(約6兆3000億円)にのぼった。この金額は、米国に次ぐ上位9カ国の支援合計額の3倍以上にあたる。大黒柱である米国のウクライナ支援が息切れしたら、反転攻勢がうまくいったとしても、来年以降、ウクライナ軍は窮地に立たされかねない」

 

戦況次第で、米国のウクライナ支援姿勢に変化が起こる可能性は否定できなくなっている。下院で多数を占める共和党が、どのような方針を示すかだ。ましてや、次期大統領にトランプ氏の復帰となれば、情勢が読みにくくなる。

 

(4)「そんな米国の行方を左右するのが、下院で過半数をおさえる野党・共和党の出方だ。共和党指導部はウクライナ支援を続ける姿勢を鮮明にしているが、トランプ前大統領に近い一部議員などに消極論がくすぶる。与党・民主党内にも支援増額に難色を示す議員はいるが、今のところ、ウクライナ支援を強めるバイデン政権の路線に従っている。その意味で今後、いちばん気になるのが、共和党の動きだ」

 

トランプ氏に近い一部下院議員には、ウクライナ支援消極論がある。これが今後、どういう動きをするかである。

 

(5)「ウクライナの反転攻勢が不発に終わってしまったら、共和党内の保守的ナショナリストや対外関与抑制派から支援を減らし、停戦をウクライナに促すよう求める声が強まりかねない。逆に攻勢が成功すれば、共和党も含めた米議会内で、支援継続のムードが来年にかけても保たれるだろう。米国は今年11月ごろから大統領選の季節に入る。バイデン政権、議会とも世論の動向に一層、配慮せざるを得なくなる」

 

米国世論が、ウクライナ支援に対してどのような態度を取るかもポイントになる。あくまでも民主主義を守るという固い信念を持ち続けるのか。これは、中国の台湾侵攻阻止への支持を占う試金石にもなろう。

 

(6)「米メリーランド大による最新の世論調査では、米国のウクライナ支援が「多すぎる」との回答が33%を占め、「適度な水準」(30%)を超えた。米共和党の国際秩序派の一人は「年末になってもウクライナが苦戦していたら、西側陣営にとっては敗北だ」と語る。米国による支援疲れを防ぎ、西側陣営の結束を保つ上で、反転攻勢の成否が極めて重要な重みを持つ」

 

米国世論では現在、ウクライナ支援が「適度な水準」(30%)を超え、「多すぎる」(33%)になっている。これに従えば、ウクライナ支援は「微減」もありそうだ。