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始皇帝まねるは愚策

抑制策は中国包囲網

G7で対中共同報復

NATOも包囲網へ

 

中国では現在、異変が起こっている。台湾侵攻への反論が、堂々とSNS上に表れており、当局が削除せずに放置していることだ。その内容は、武力統一が現実離れしており、極めて危険という慎重論である。習近平氏の主張に反対するものである。この背景に何があるのか。経済失速、西側諸国の対中包囲網など、中国をめぐる状況が暗転している。これを反映しているのであろう。

 

昨年10月の共産党大会で、習近平氏は武力を用いてでも台湾統一を実現すると宣言し、これによって「国家主席3期目」を実現した。それにもかかわらず現在は、台湾侵攻論を放棄するような言論を許している。台湾侵攻への迷いが、見え始めたと言えるほどの重大な兆候であろう。

 

習氏の国家主席3期目が決定以来、西側では台湾侵攻が2027年までにありうるという見方に立っている。これを機に、中国を見る世界の目は警戒論に変わった。米国は言うまでもなくEU(欧州連合)も、中国に対してロシアに準じる警戒論に変わっている。

 

アジアもまた、中国警戒態勢を強化している。「クワッド」(日米豪印)や「AUKUS」(米英豪の軍事同盟)のほかに、フィリピンが米国へ台湾有事に備え、新たに武器弾薬備蓄の用地として4カ所を提供することになった。韓国も、台湾の武力統一論に反対する側に回った。

 

最近では、NATO(北大西洋条約機構)が、東京事務所を開設する意向を見せるなど、「中国包囲網」は欧米日の世界3極構造にまで発展している。これでは、西側諸国が中国との経済交流を抑制する方向へ舵を切るのも当然であろう。

 

中国経済は、不動産バブル崩壊後遺症に加え、3年間のゼロコロナによる経済空白期が、中国社会の経済的心理状態を萎縮させている。こうした状況下で、さらに欧米日から経済的に排除されるとなれば、一体中国はどうなるのか。4月の経済指標はいずれも事前予想を下回り、「失速状態」を印象づけた。この状況での台湾侵攻論が、いかに危険であるかは誰の目にも明らかであろう。

 

始皇帝まねるは愚策

こうした背景を考えれば、最近の中国で「台湾侵攻慎重論」が登場し、当局の半ば公認の形で閲覧されていることは国内世論からブレーキが掛り始めたと読めるのだ。そこで、どのような点が、話題になっているのか見ておきたい。『日本経済新聞 電子版』(5月10日付)から引用した。

 

1)「いったん、台湾の武力統一に踏み切れば、中国はおそらく『四面作戦』(四面楚歌)を強いられる。我が(中国)軍は慎重であるべきだ」

2)「武力による台湾統一を叫ぶ人は愚かである。そうでなければ悪人といってもよい」

 

かなり「刺激的発言」である。特に2)は、間接的に習近平氏を批判しているようにも受け取れるきわどい発言だ。これが、SNS上で削除もされないで多くの人の目に晒している意図は何か。それが、逆に問わなければならないほどである。

 

この背景になるのは、中国経済が急速に悪化していることと、世界3極の欧米日が軸になって中国包囲網を作り上げていることだ。これら2つの要因から、中国が台湾侵攻した場合、勝ち目がないのは明らかである。中国世論の中に初めて冷静な議論が生まれ始めている前兆とも読める。中国共産党内部で、台湾侵攻をめぐる議論が戦わされていることを暗示もしている。経済改革派は、習氏によって党内や政府の主要ポストから一掃されたが、それだけに残された発言力によって、中国危機へ対応しようとしているのであろうか。

 

熱狂的な「台湾侵攻論」とは反対意見の発表が容認される裏に、中国の置かれている客観的な状況が極めて悪化しているという認識が働いているはずだ。事実、このブログ前号でも指摘したように、地方政府は財政危機に陥って失業対策も行えない状態だ。そこで、失業者に「露店経営」を認めるから、自活せよというに事態にまで追込まれている。また、失業青年は農村で働けという趣旨の習氏による文章(手紙形式)公開は、国家としての失業対策義務を放棄したに等しいであろう。

 

少なくも昨年秋までは、武力による台湾侵攻が国民の支持を得られていたはずだ。習氏の国家主席3期決定の背後に、武力統一論を疑う議論が存在しなかった。ここまで武力統一論が支持されてきたのは、中国が始皇帝による国家統一以来、「武力」を用いることに何の違和感も持たないという歴史感覚の存在が大きな影響を与えている。偉大な皇帝は、領土拡大を行ってきたという史実に支えられてきたのである。

 

秦の始皇帝は、春秋戦国時代に「戦国七雄」の一つにすぎなかった。敵対勢力の六ヶ国(韓・魏・趙・燕・楚・斉)に囲まれていたのである。それが、いかに統一を成功させたか、である。その外交政策が、「合従連衡」と呼ばれるものである。現在まで、中国の外交パターンとして引き継がれているのだ。(つづく)

 

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