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G7広島サミットは、欧米から高い評価を得ている。日本外交が、国際政治におけるインド太平洋の重要さを認識させたというものだ。これが、今回の広島サミットの意義を高めたとしている。同時に、この認識は欧州の「島国」英国も共有しており、日英は同時にインド太平洋の占める国際政治の重要性を世界に訴えたとしている。 

インド太平洋と言えば、中国の膨張政策が最大の問題である。中国は、台湾侵攻をちらつかせながら周辺国を威嚇している。将来は、世界秩序の組み替えまで意図するという常人では考えがたい妄想を秘めている。それゆえ、インド太平洋が次なる「発火点」になる危険性を抱える理由だ。
 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月24日付)は、「G7議長国日本、世界を指導」と題するコラムを掲載した。筆者のウォルター・ラッセル・ミードは「グローバルビュー」欄担当コラムニストである。 

先週末にかけて広島市で開かれた先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)は異例だった。それは今回の会議が重要だったからだ。毎年開催されるG7サミットのほとんどは、すぐに忘れられる空虚なイベントだ。しかし、世界で緊張が高まる中、日本は新たな緊迫感に目覚めた。岸田文雄首相は、富裕な民主主義国家の集まりの議長国という立場を使い、重要な真実を強調することを決意していた。そして目標を達成した。広島サミットの成功は、岸田氏にとって個人的な勝利であると同時に、世界的な危機への協調した対応を導き出すための節目となった。
(1)「岸田氏が、仲間の首脳らに強調したかった点は二つあった。一つ目は中国とロシアからの一体的で差し迫った挑戦に世界が直面していることだ。これは日本が無視できない現実である。中国とロシアは日本の隣国だ。日本は第2次世界大戦以降、両国との間で領有権をめぐる問題を抱えている。ロシアと中国は、日本海で海軍同士の協力を強化している」 

日本は、中国とロシアの二カ国の間に領土問題を抱えている。この中ロは、一体化しておりウクライナの次は台湾で騒ぎを起こそうと狙っている。それだけに、日本は大きな危機感を抱いている。ウクライナの危機は、インド太平洋の危機を誘発しかねないのだ。

 

(2)「日本のこうした主張について、多くの欧州指導者はあまり熱心に支持していない。英国やリトアニアなど際立った例外はあるものの、欧州諸国はロシアおよび中国との対立について、結束・協調した対応を必要とする単一の世界的危機として位置付けることを回避しようと努めてきた。ドイツは自動車を、フランスは高級品を中国で売りたがっている。両国は、中国との経済関係に地政学的な緊張の影響ができるだけ及ばないようにしてきた」 

欧州には、中国への危機感が切羽詰まったものでなかったが、ウクライナ侵攻を間接的に支持する中国の素顔を見て認識を改めた。ロシア=中国、ウクライナ=インド太平洋という位置づけだ。


(3)「岸田氏は、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領をサミットに招待した。これは、国際秩序に対する中国とロシアの挑戦に対して結束した取り組みの重要性を強調するという、日本としては異例の劇的なキャンペーンの最新の動きだった。今年3月に中国の習近平国家主席がロシアのウラジーミル・プーチン大統領との連携を確認するためモスクワを訪問した翌日、岸田氏は日本とウクライナとの連帯を明確に示すために首都キーウ(キエフ)を電撃訪問した。今月には、日本と北大西洋条約機構(NATO)がより緊密に連携するため、東京とブリュッセルに連絡事務所を開設することを明らかにした」 

日本外交は、これまでの殻を脱ぎ捨てている。欧州をしてインド太平洋に関心を持たせるべく努力を重ねる。ウクライナのゼレンスキー氏を招待して、欧州の危機はインド太平洋の危機に連なることを例示した。NATOが、東京へ事務所を開設するのもその動きを示す。 

(4)「ゼレンスキー氏は、広島においても、いつものようにメディアに大きく取り上げられた。これにサミットの開催国(日本)は満足した。中国に関する懸念が公式議題の中心を占めていた会議で、ゼレンスキー氏が注目を集めたことは、中国とロシアの問題の関連性を浮き彫りにした」 

日本は、ゼレンスキー氏を招待して中ロの一体化による危険性を訴えた。

 

(5)「日本が主張するポイントはもう一つあった。広島に招待されたG7構成国以外の首脳のうち、欧州の指導者はゼレンスキー氏だけだった。インド太平洋諸国から招待された首脳はもっと多い。ベトナム、オーストラリア、韓国、インド、そして(太平洋諸島フォーラム=PIF=の議長国の立場で参加した)クック諸島の首脳が、待望の招待状を受け取った(12月1日にインドを引き継いで20カ国・地域=G20=首脳会議の議長国となるブラジルと、アフリカ連合=AU=の現議長国コモロの首脳も招待された)」 

広島サミットでは、広義のアジアから8カ国の首脳を招待した。欧州は、ウクライナ一国である。このことも、インド太平洋の重要性を世界に認識させた。

 

(6)「そのメッセージは極めて明確だ。日本はウクライナ情勢に懸念を抱き、欧州でのロシアの行動と日本周辺での中国の動きの深い関連性を認識している。国際政治の中心は、欧州からインド太平洋へ移ったということだ。日本の立場に最も近い世界観を持っている国は、ユーラシアの西の端にあるもう一つの島国だ。英国の当局者や議員が同様の世界観に基づく主張を相次いで展開した」 

日本の危機感に賛同するのは、米国を除けは英国である。ここから、米国の真の同盟国が日英二カ国とされる理由でもある。日米英が、インド太平洋の危機を克服すべく、欧州を引き寄せる関係になった。