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G7のウクライナ支援策

中国のロシア支援が明確

中国の自国利益優先とは

NATOが軍事支援協定

 

中国は、意に沿わぬ国に対しところ構わず「戦狼外交」で威嚇してきた。その中国が一転して、「仲介外交」というハト派に転じ、ウクライナ侵攻の平和解決に向けて特使を派遣した。中国特使は5月16~17日に、最初の訪問国としてウクライナへ。次は、19日にポーランドへ足を伸ばしたが、いずれも厳しい反応が返ってきた。中国特使は、ウクライナでゼレンスキー大統領と会談したが、ウクライナ当局はその事実すら発表せず黙殺された形だ。よほど、ウクライナを怒らせた会談内容であったのであろう。

 

中国特使は、ポーランドでもほぼウクライナ同様の対応が返ってきた。おまけに、ロシアへ武器の支援をしたならば、欧州との関係で重大な結果をもたらされると警告された。中国特使が、「玄関払い」の扱いを受けることになったのだ。およそ、「特使」という扱いを受けず、厄介者扱いされたのである。

 

ロシアは、ウクライナを侵略した。中国は本来、そのロシアを説得し侵略行為を中止させなければならない立場である。この重大な事実に触れず一方的に停戦を求めても、ウクライナが聞く耳持たぬのは当然だ。ウクライナは現在、侵略された国土の奪回を求めて反攻作戦の準備をしている最中である。そのウクライナが、中国の「和平案」を受け入れることは、ロシアの侵略を認めることだ。中国は、こうした不条理な和平案を持ち込んだのである。外交センスが、完全にズレていることを示した。

 

G7のウクライナ支援策

こうした前哨戦の後、5月19~21日にG7広島サミットが開催された。発表された共同宣言の最初の項目は「ウクライナ」である。次のような内容だ。

 

1)国際法の重大な違反であるロシアによるウクライナ侵攻を改めて最も強い言葉で非難。

2)ロシアの残忍な侵略戦争は国際社会の基本的な規範、規則、原則に反し、全世界への脅威だ。

3)永続的な平和を取り戻すため必要な限り、ウクライナへの揺るぎない支援を再確認する。ウクライナに対する外交、財政、人道、軍事的な支援を強化する。

 

このG7の共同発表によれば、中国の和平案は「白と黒」の関係に立つ。中国案が12項目からなるが、主要部分は次の点である。

1)すべての国の主権の尊重

2)冷戦思考からの脱却

3)敵対行為の停止

4) 和平交渉の再開

 

1)は、文字通りに読めば、ロシアの侵略を認めない前提に立っている。ロシアは、明白にウクライナの主権を侵害したからだ。だが、NATO(北大西洋条約機構)が加盟国を増やしてロシアの主権を脅かしたので、ウクライナ侵攻はロシアの「自衛戦争」という位置づけと理解すれば、ロシアの主権尊重という意味合いになる。両方にとれる「曲球」である。

2)は、「ロシアの主権尊重」と理解すれば、NATOがウクライナを支援するのは「冷戦志向」という解釈になる。このウクライナへの支援を止めろという文脈だ。

3)は、「ロシアの主権尊重」の立場から言えば、ウクライナが戦闘行為を中止すべきという結論になる。

4)は、ロシア主導で和平交渉を行う、という結論になるであろう。

 

以上のように解釈すると、中国の和平案は中立を装った「ロシア提案の和平案」と言って差し支えないほど、不公平な案である。この裏には、中国の台湾侵攻の意図が隠されていることに気づかねばならない。つまり、台湾の主権は中国にあるという解釈である。だが、中国政府の主権は台湾に及んでいないのだ。選挙で選ばれた台湾政府が、国民と領土を統治しているもので、台湾に国家主権が成立する。中国の台湾侵攻は、国際法違反行為になる。ロシアのウクライナ侵攻と中国の台湾侵攻は、同一次元において完全な国際法違反となる。

 

中国のロシア支援が明確

実は、今年2月にインドで開催されたG20の財務相・中央銀行総裁会議で、ウクライナを侵攻するロシア非難の合同宣言を見送らざるを得なかった一件がある。ロシアと中国が反対したからだ。他の18カ国は、ロシア非難で一致していた。ここから読み取れることは、中ロが紛う方なき「一枚岩」の団結を示している点である。

 

共同宣言案の中で、ロシアによる軍事侵攻を「最も強い表現」で非難するという部分について、中国が受け入れを拒否した。ロシア政府は、西側の「反ロシア」諸国がG20を「不安定」にしたと非難した。G20議長国のインドは、その後に「議長総括」を発表。その中で、ウクライナの状況と対ロシア制裁について「複数の異なる情勢分析」があったと指摘して内幕を明かした。中国とロシアが反対したのだ。

 

これまでの国連におけるロシア非難決議の採決では、ただ「賛成・反対・棄権」の中から選択するだけで、その理由は不明であった。だが、今年のG20の財務相・中央銀行総裁会議では、中国が国連決議におけるような「棄権」でなく、堂々とロシアと同一意見であることを示した。この一点を以て「中ロ」は一体化していることを明確にした。厳密に言えば、中国にはウクライナ侵攻での公平な「和平仲介」国になる資格がないのだ。(つづく)

 

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