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中国政府は5月21日、米マイクロン製品が「中国の重要な情報インフラに重大な安全上のリスクをもたらす」として、輸入禁止処分にした。だが、マイクロン製半導体はほとんどがモバイル機器や家電製品に搭載されており、インフラ関連に使われていない。事実、中国政府の発表で深圳市江波龍電子の株価が4%下落するなど、マイクロンから半導体を調達している中国企業の株価が下落した。『フィナンシャル・タイムズ』(5月22日付)が報じた。前記の事実からも分るように、マイクロン製半導体はモバイル機器や家電製品に搭載されている。中国政府の禁輸理由は、米国への対抗上で付け足したもので真実でない。

 

中国政府が、国内のユーザー企業へ影響が出ることを覚悟で、マイクロン製半導体の輸入禁止に踏み切った理由は、国内の半導体需要を押し上げる目的もある。マイクロン製半導体に比べて品質が劣っても国内生産に切り替え、半導体需要を確保する必要に迫られていることは間違いない。中国の半導体産業の実態をSMICの業績から読み取りたい。

 

『東洋経済オンライン』(5月24日付)は、「中国半導体SMIC、設備稼働率70% 割れの難局」と題する記事を掲載した。これは、中国紙『財新』記事の転載である。

 

中国の半導体受託製造(ファウンドリー)最大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)の経営が難局に直面している。同社が5月11日に発表した2023年1~3月期の決算によれば、同四半期の売上高は14億6200万ドル(約1975億円)と前年同期比20.6%減少。純利益は2億6700万ドル(約361億円)と同53.1%減少し、大幅な減収減益となった。

 

(1)「稼働率は68.1%にとどまり、昨年10~12月期の79.5%からさらに低下した。ファウンドリーは典型的な設備集約型のビジネスであり、稼働率の低下は利幅縮小に直結する。粗利率は20.8%と、10~12月期の32.0%から大きく落ち込んだ。13月期の売上高に占める分野別の比率を見ると、スマートフォン向けが23.5%と前年同期より5.2ポイント低下した。また、コンシューマー用電子機器向けが26.7%と、同1.1ポイント下がった」

 

半導体需要は、スマホやコンシューマー用電子機器向けが大きく落ち込んでいる。これが、業績に響いている。米マイクロン製半導体の輸入を禁止しても、汎用品半導体需給で見れば、その影響はない状態だ。

 

(2)「産業用やEV(電気自動車)向けの半導体は、現在も供給が需要に追いついていない状況だ。しかし、これらの分野の半導体は種類が多く、1製品当たりの生産量は多くない」「今のところスマホ向けやコンシューマー用電子機器向けの受注に回復の兆しはない。一方、(あらゆるモノをネットにつなぐ)IoT向けはすでに受注が戻り始めた」。今後の業績について、業績が13月期で底打ちしたとしても、2023年後半の回復度合いを見通せないとしている」

 

産業用やEV向け半導体需要は旺盛である。ただ、生産量が少ないこともあって、採算的な妙味は少ない。業績の落込みを支えるほどの寄与になっていないのだ。業績は、4~6月期に回復したとしても、年内の確たる見通しを立てられるほどにはならないという。

 

中国を代表する半導体企業SMICは、半導体需要の急減に直面している。中国政府は、こういう「需要の谷間」で米マイクロン製半導体に難癖をつけて輸入禁止にした。この措置が、国内供給に大きな障害にならないと踏んでいるのであろう。

 

中国は多分、マイクロン製半導体の「穴」は、韓国のサムスンやSKハイニックスからの供給でカバーできると見ているかも知れない。だが、米国からの圧力でこの思惑は不可能になろう。こういう事態になり、いずれ半導体需要が回復し始めれば、改めてマイクロン製半導体を輸入禁止したデメリットに気づくはずだ。そのときは、G7からの「共同報復措置」に直面しているであろう。