米国投資銀行は年初来、今年の中国経済が「経済再開」特需もあり、5%成長を確実視する予測を繰り広げてきた。これに釣られて、多くの投資家が中国株を購入したが、株価は下落して大損を被っている。こうした予測外れに対して、ロックフェラー・インターナショナル会長のルチル・シャルマ氏が『フィナンシャル・タイムズ』へ寄稿した。
それによると、現実の中国経済は5%成長軌道から大きく外れていると指摘する。その意味では、本欄がこれまで取り上げてきた記事と同じである。改めて、中国経済の厳しい現実を知ることで、根拠不明な楽観論への警鐘として聞きたい。
『フィナンシャル・タイムズ』(5月21日付)は、「ウォール街の中国経済予測は現実離れ」と題する寄稿を掲載した。筆者は、ロックフェラー・インターナショナル会長・ルチル・シャルマ氏である。
中国経済のどこかに問題があるとき、米金融界のアナリストがそれを教えてくれると期待してはいけない。筆者が知る限り、中国について一部の米投資銀行が描く楽観的な見通しと、経済の暗い実態が、ここまでかけ離れたことはかつてない。
(1)「過去のパターンでは、中国経済が5%の成長軌道にある場合、企業の増収率は8%を超える。だが、2023年1〜3月期の増収率は1.5%にすぎなかった。中国に28ある業種区分のうち、個人消費の中心となる自動車や家電を含む20業種で、企業の増収率は、政府が目標とする経済成長率を下回っている。本来はGDP成長率と関連性が高いはずの消費財関連企業の収益の増加率も、売り上げ不振のあおりで1〜3月期は落ち込んだ。経済再開特需どころか、MSCI中国株指数は1月のピークから15%低下し、裁量支出関連銘柄は同じ期間で25%下げている」
企業レベルで見た中国経済は、失速状況にある。1~3月期の増収率は1.5%にすぎず、個人消費に関わる業種の増収率が落ち込んでいる。GDPが5%成長ラインにあるときは、企業増収率は8%を超えるのだ。現実には、これを大きく下回っている。
(2)「中国の融資の伸びも鈍化している。4月の純増額はおよそ7200億元(約14兆円)と、予想のわずか半分だった。家計の元利払い負担はここ10年間で2倍に拡大し、可処分所得の30%(米国の3倍)に上っている。中国人の若者の多くは消費を増やす前にまず仕事を見つける必要がある。都市部の若年者失業率は上昇しており、4月には20%を超えた」
家計は、住宅ローン金利負担で圧迫されている。家計の元利払い負担が、ここ10年間で2倍に拡大している。元利負担が、可処分所得の30%も占める。これでは、消費を切り詰めるしか道はない。
(3)「これらの事実は、中国経済における問題のありかを示唆している。中国経済は08年以降、政府による経済対策と借り入れの拡大を支えに拡大してきた。こうした資金の大半は不動産に向かい、不動産市場が成長の原動力になった。中国政府は債務の膨張を踏まえ、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)中の景気下支えを目的とした財政出動には慎重な姿勢を強めた。中国ではパンデミックが始まってから23年初めまでに、貯蓄超過額がGDP比で3%に上った。一方、米国では、この比率は10%に達し、景気刺激策を受けて経済再開特需が大きく盛り上がった。中国ではそのような特需は起きていない」
中国経済は、2008年のリーマンショックを財政支出4兆元で乗切った。これ以来、不動産バブルとの「縁」を深めてきた。一時、不動産価格高騰を抑制したが、2012年の習近平の国家主席就任後は、不動産価格を煽る形でGDP成長率を押し上げ、軍事費拡充へ振り向けてきた。不動産バブル=軍事費拡大の関係にある。
(4)「経済対策と債務に頼る成長モデルは持続可能ではないという例にもれず、中国経済は失速しつつある。中国では、直近10年間、地方自治体が経済対策を支えてきた。各自治体は「融資平台」と呼ばれる投資会社を通じて資金を借り入れ、土地使用権を購入することで、不動産市場を押し上げてきた。融資平台の間では、債務の元利払いに必要な現金が急速に不足しつつあり、不動産や製造業への投資を抑えている。経済再開特需の中心となる消費関連業種以上に製造業の減速が著しい」
下線部分は、中国経済の限界を示している。民間経済の発展力に依存せず、財政支出拡大とそれに伴う債務膨張が、中国経済の潜在成長力を蝕んでしまった。その矛盾が、地方政府の「融資平台」の隠れ債務として時限爆弾になっている。
(5)「中国政府が今年5%の経済成長を引き続き目指している一方で、潜在成長率はその半分にまで低下した。潜在成長率は人口と生産性の伸びと関係している。中国の人口減は、労働力人口に加わる人数の減少を意味する。債務の負担が重く、1人あたりの労働生産性は低下している」
中国の今年の成長率目標は、「5%前後」である。現実は、その半分程度の軌道を描いていると指摘している。労働力人口の低下と過剰債務による設備投資抑圧が、労働生産性を低下さるというのだ。労働生産性の低下は、中国のウイークポイントである。現在、ますますその傾向が強くなっている。「習近平、どうする?」だ。
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