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中国が、主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB:2016年開業)の投融資が伸び悩んでいる。開業7年強での累計額は412億ドル(約5.7兆円、承認ベース)と当初想定の5割強にとどまっている。融資機能が整わず、先行のADB(アジア投資銀行:1966年開業)と協調融資をしている。これでは、AIIB設立の意義がないと批判されるほど。

 

AIIB発足当初は、投融資額を年100~150億ドルと想定していた。計画通り進めば現在の累計額は740億ドル程度になるはずだった。実際は計画の5割強にとどまった。金総裁によれば、新型コロナに加え、人員不足を挙げた。「職員の採用さえ増えれば、年間投融資額を増やせる」と強調している。『日本経済新聞 電子版』(5月25日付)が報じた。

 

日本は、AIIBへ加盟していない。別途、日米主導のADB(アジア投資銀行)を設立しているから、あえてAIIBへ加盟する必要性がないのだ。AIIBが、中国主導であることから、「中国色」を警戒したもの。米国も加盟していない。

 

韓国は、AIIBを舞台に活動分野を広げたいと必死である。日本は敬遠し韓国は意欲的という違いこそ、日韓の「金融力」の格差を物語っている。まずは、韓国のポリシーを見ていこう。

 

『wowkorea』(5月25日付)は、「韓国政府、アジアインフラ投資銀行と協力強化」と題する記事を掲載した。

 

韓国政府は25日、「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」の投資事業に韓国企業がより活発に参加できるようAIIBに協力を強く求めた。企画財政部(諸外国の財務省に相当)のパン・ギソン第1次官は25日、フェアモントアンバサダーソウルで、アジアインフラ投資銀行(AIIB)のLudger Schuknecht事務総長と会い、韓国とAIIBの協力拡大方案を話し合った。

 

(1)「パン次官は、「AIIB投資事業により多くの韓国企業が参加し、産業銀行・輸出入銀行など韓国金融機関とAIIB間の協力がより拡大するように事務総長の関心と支援をお願いする」とし、「韓国訪問中に予定された韓国銀行総裁、産業銀行会長、輸出入銀行、KDI院長らとの面会を通して共同投資など、より多くの協力事業が発掘されることを願う」と明かした。また、パン次官はAIIB内のさまざまな分野で韓国人の採用が拡大することを希望すると伝え、「たくさんの韓国の若者が、AIIBに関心を持つことができるように国際機構の採用説明会にAIIBも積極的に参加してほしい」と要請した。Schuknecht事務総長は「今後も韓国企業・金融機関との協力強化、韓国人の採用拡大、韓国研究機関との知識交流など韓国との協力をより強化していくことを望む」と明かした」

 

このパラグラフを見ると、韓国経済がいかに行き詰まっているかをよく示している。国内の金融機関とAIIBとの連携によって、融資を受けたいという意向がにじみ出ている。同時に職員採用でも要請しているのだ。一方、日本の場合はどうか。


『時事通信』(5月2日付)は、「中国主導のAIIB、 日本に秋波 筆頭副総裁単独インタビュー」と題する記事を掲載した。

 

ルトガー・シュークネヒトAIIB筆頭副総裁は、温和なドイツ紳士だった。副総裁就任後の来日は初めて。訪日の最大の目的は「AIIBは世界銀行やアジア開発銀行(ADB)と同じく、まともな国際開発金融機関である」(関係筋)ことを訴えることだ。今後はAIIB幹部が定期的に日本を訪問する予定だといい、中国出身の金立群総裁も来年までには訪日するという。

 

(2)「AIIBは、先進7カ国(G7)のうち英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダが加盟する一方、日本と米国は入っていない。加盟して内側から日本が影響力を行使するべきだとの意見もあったが、『安倍晋三 回顧録』(中央公論新社)によれば、「習近平がAIIBの構想を発表した13年当時はかなりの警戒感」があった。経済力にモノを言わせて地政学上重要な場所にある貧しい国々を借金漬けにし、事実上支配する「債務の罠(わな)」外交の手段として、国際開発金融機関を設立するのではないかという懸念だ」

 

韓国を訪問したSchuknecht氏は、取材に応じたシュークネヒト氏で同一人物だ。AIIBは、日本が出資不参加国だが諦めずにコンタクトを取り、いつの日か誤解を解きたいという姿勢だ。日本は、AIIBの裏にいる中国を一貫して警戒している。

 

(3)「シュークネヒト氏はインタビューで、AIIBを巡る懸念を払拭しようと努めた。まずAIIBが世銀やADBと同等のESG(環境・社会・ガバナンス)基準を設けており、既に200件以上、400億ドル(5.4兆円)以上のプロジェクト実績があることを説明。協調融資も多く、ADBとは35件、日本の国際協力機構(JICA)とは7件でタッグを組んだという。同氏は「もし、『中国の手先』だったら、彼らは協働しなかっただろう」とし、「取引相手と国際社会はわれわれを信用している」と自信を見せた」

 

AIIBは、中国というバックがつくだけに、金融機関としては政治的に「中立色」を強く打ち出している。ウクライナ侵攻をしたロシアへは新規融資を止めるなど毅然たる姿勢を見せている。AIIBを創設した当時、中国経済は上り坂であった。その余勢を駆って設立したが、中国経済の下り坂と共に苦しい立場になろう。