歴史の巡り合わせに驚く
日米英がスクラムを組む
日本「再評価」の時代へ
国際標準化する企業経営
日本が、高度経済成長後に失速したのは、不動産バブル崩壊後遺症の処理で約20年もかかった結果だ。この間に、円相場は1ドル=100円突破という超円高を経験させられた。これにより、日本の虎の子である半導体産業は、巨額投資に耐えられず韓国にトップの座を譲るほかなかった。
この裏に、米国の日本経済叩きがあった。超円高を演出したのは米国である。外国為替市場で、米財務省トップが「円高誘導」発言を繰り返した。ウォール街は、それに従い大量の円買いを行ったのである。米国が、率先して円買いに走ったので、異常円高は不可避であった。
米国は1980年代後半、日本に対して「旧敵国」意識に燃え復讐の機会を待っていた。太平洋戦争で敗北させた日本が、経済力では米国へ対抗できる力を持ち始めてきた。その上、日本が米国発祥の半導体において独自技術で米国を脅かしつつあった。それだけに、「日本叩き」には熱が入ったのだ。
米国は、表面的に「日米親善」を唱えてきたが、心から日本を許すことはなかった。現に、米議会で日本の首相が演説したのは、安倍首相(当時)一人である。韓国大統領は7回と圧倒的に多いのだ。これは、日本に対して太平洋戦争開戦国という烙印を押した結果である。戦争とは、これだけ長く尾を引くものである。
歴史の巡り合わせに驚く
現在、歴史の巡り合わせが起こっている。米国は、中国という「敵対国」が現れるに及んで、日本との関係構築を真剣に模索している。米国の安全保障にとって、アジアは最大の防衛地域に浮上している。米国一国で対抗するには心許ないのだ。そこで、「旧敵国」の日本と手を結ぶことが唯一の策という結論になった。日本にとっても、中国の軍事的台頭は最大の危機である。米国が、バイデン政権になって急速に日本との距離を縮めた背景はこれである。
中国の地政学的リスクが、日米同盟を一段と結束させる原動力である。地政学とは、国際政治を地理的条件から論じるものである。米中対立に伴う中国リスクの増大が、日米関係を強化させた背景である。約30年前、米国は日本の半導体技術に恐怖感を持って潰しにかかってきた。その思惑は見事に成功した。1985年当時、日本半導体は約50%の世界シェアを握っていた。それが現在は、10%程度と凋落したのである。だが、半導体製造装置や半導体素材では、依然として世界を動かす実力を持っている。
米国は、この日本半導体の力を利用して「中国封じ」に出ることになった。日本を頼むほかなくなったのである。日本にも一大チャンスがめぐってきたのだ。「歴史の巡り合わせ」とは、こういう意味である。
歴史の巡り合わせは、偶然にも見えるがそうではない。ここでは、必然という意味に理解すべきであろう。日本は、明治維新以後の国家運営において、米英と密接な関係を持ってきた。近代化モデルは、欧米からの導入である。国運を賭けた日露戦争は、米英の隠れた外交努力で日本がかろうじて得た勝利である。
米英はなぜ、日本を支援したのか。それは、「海洋国家」という共通項の存在である。一方、なぜロシアの進出を食止めようとしたのかだ。それは、ロシアが「大陸国家」であり、他国の権益を奪取する歴史を持っていることを恐れたのである。海洋国家は、自由貿易で富を蓄積してきた。大陸国家は、領土拡張という侵略性を武器にした。これが、決定的な違いである。
現在、ロシアはウクライナを侵攻している。大陸国家として持つ、歴史そのままの行動である。ドイツが、第一次・第二次の世界大戦を引き起こした背景には、大陸国家の持つ宿命である領土拡張意欲があった。ヒトラーの場合、「生存権」という言葉に置き換えたが、領土拡張である。日本は、太平洋戦争開戦でこの生存権を意味する「絶対国防圏」なる言葉で、アジアを侵略した。海洋国家の立場を忘れた侵略行動である。
日本は、敗戦によって海洋国家の路線に引き戻された。こうして、日米英は再び固く結び合うことになったのだ。英国が、EU(欧州連合)から脱退した背景には、海洋国家としての歴史が欧州と馴染まなかったに違いない。英国は、EUの発展に限界を見て取り、アジアへ経済の活躍舞台を求めたのである。
その裏には、同じ海洋国家の日米と協力する意図が明確にされている。英国のTPP(環太平洋経済連携協定:米国は脱退)加盟は、日本との関係強化が眼目である。英国は、日本とイタリアと共同で次世代戦闘機を開発する。これによって今後、数十年間の日英関係が安定的に発展する「仕組み」ができた背景だ。次世代戦闘機は、少なくも40年間の使用を前提にする。他国への輸出も計画されているだけに、日英は共同でメンテナンスに対処するのだ。(つづく)
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コメント
多角経営などという一部の経済学者のまやかし言葉に乗せられ、本業をないがしろにして大問題を起こした巨大企業も有りました。
技術系新卒が軽く扱われたのも異常で、結局、本業を大切にしてきた企業が安泰だったように思います。
これからも、世界を相手に本業を大切にして行くのが大切だと思います。
アメリカとの関係も、ドップリと浸かることなく、是々非々を見極められる経営者に期待したい。
高度経済成長時代の経営者とその後の経営者を比較して言えることは、いわゆる「大物経営者」が消えたことでしょうか。夢が消えて、目先の「銭勘定」ばかりしている経営者が増えたように思います。記憶に残る経営者がいないのです。「財界」という言葉も死語になりましたね。
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