年初来、中国株に大挙して押し寄せた外国人投資家が、景気回復の見通しは暗いと見て今度は一斉に脱出している。習近平体制にリスクを読み取っている証拠であろう。投資のピークだった2021年でさえ、公式統計によると外国勢が保有していた人民元建ての中国株・債券は8兆元(1兆1000億ドル)強と、米国上場株・債券の27兆ドルに遠く及ばなかった。人民元建ての中国株・債券は今、7兆元を割り込んでいるのだ。完全な人気離散である。
『ロイター』(5月30日付)は、「漂流する中国株式市場、最後の望み個人投資家も敬遠」と題する記事を掲載した。
新型コロナウイルス後の上昇に陰りが見える中国株式市場では最後の希望も消滅しつつある。景気回復が失速する中、大量の個人投資家が株式に弱気になり、安全資産に資金を移しているためだ。
(1)「市場関係者は今年、巨額の余剰貯蓄が株式市場に流れ込むと予測していた。景気の回復ペースが増す一方で、不動産市場の霧が晴れず、投資先は株式しかないとの見立てだった。ところが、海外からの資金流入は実現せず、警戒した個人投資家も株式市場に背を向け、債券や預金に殺到。株式市場は漂流している。中国本土の株式市場は昨年10月から今年1月にかけて20%高騰したものの、足元では年初から1%下落。香港株式市場も年初来安値で取引されており、中国国債の利回りは低下している。値上がり確実とされていた市場が失速し、資金流出が続いている」
中国株を囃し立てたのは、米国投資銀行である。今年の中国GDPを5.5%以上と大いに話を盛ったのだ。今や、いつこの過大予測を修正するのか、皮肉な目で見られているのだ。
(2)「中国証券監督管理委員会(証監会)の易会満主席によると、中国では個人投資家の取引が市場全体の約6割を占める。JPモルガンの推計によると、米国では25%未満だ。個人投資家の株式離れは市場のデータにも表れている。リスク選好度の指標である信用取引残高は約1カ月ぶりの低水準。A株市場の取引高は3月初旬以来の水準に落ち込んでいる。中国証券預託決済機構によると、証券会社の口座開設も2~3月は勢いがあったものの、4月は減少。投資信託の設定も減っている」
中国では、個人投資家が市場全体の6割も占めているという。米国は25%未満。日本は2割未満である。50年前は、3割以上あったが長期の株価低迷で人気離散した。中国の6割が個人投資家とは、機関投資家の比率が極めて低いことを示している。それだけに、相場のアップダウンが激しくなるのだろう。
(3)「グロウ・インベストメント・グループのチーフエコノミスト、ホン・ハオ氏は「株式市場は中国の景気回復というテーマに不信感を抱いているようだ」と述べた。投資家の熱狂が冷めた背景には、国内経済指標の悪化、政治的緊張の高まり、世界経済の減速といった悪材料がある。中国の4月の鉱工業生産と小売売上高は予想を下回り、銀行融資も予想外に急減。西側諸国は中国製造業への依存を減らす動きを加速している」
中国の株式市場が低迷するのは当然だ。余りにも悪材料が山積している。
(4)「もっとも、悪い兆しばかりではない。一部では、市場が将来大きく反転し、国内投資家が戻ってくるとの見方も出ている。BNPパリバ・アセット・マネジメント(香港)のシニア・インベストメント・ストラテジスト、チー・ロ氏は「一部の市場関係者の推計によると、余剰貯蓄の10%が資産市場への投資に充てられる可能性がある。これは8000億元前後に達する」と指摘。UBSアセット・マネジメントのアジア太平洋マルチアセット・マネジメントを統括するヘイデン・ブリスコー氏も、こうした投資家が市場を押し上げると予想。最近、銀行以外の融資が増えており、経済にお金が回り始めた初期の明るい兆しだとの見方を示した」
余剰貯蓄の10%に当たる8000億元(約16兆円)前後が、株式市場へ流入する期待もあるという。だが、貯蓄を貯蓄以外へ振り向けるリスクが怖いという萎縮した心理が正常化するのはいつかだ。
(5)「そうはいっても、本格的な動きが始まっているわけではない。国有企業株が好調という明るい話題も、投資家のリスク選好が高まったというより、債券投資のような配当狙いの側面が強い。ミニバブル気味のAI(人工知能)関連株を除いては、魅力的なリターンは見つからない」
現在の中国市場には、魅力的な投資テーマがないのだ。不動産バブル崩壊後の日本株がどうなったか、日本の歴史を見ておくべきだろう。
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