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米投資銀行JPモルガン・チェースは、このほど上海で開いた会議には、約3000人が参加したという。会議は、メディアに公開されなかったのでどのようなことが話題になっていたのかは不明だ。『ブルームバーグ』(5月31日付)によれば、JPモルガンCEO(最高経営責任者)のダイモン氏は、現在の状況について「はるかに複雑」になっていると認めた。また、同行が「良い時も悪い時も中国にとどまる」と述べたことは、中国経済の実態が極めて悪化していることを示唆したと受け取られている。

 

JPモルガン中国部門のマーク・レオンCEOは、インタビューで中国について「規模や、事業を行うための評判を少しずつ育てていくのには、われわれが望むよりも多くの時間が必要な見込みだ。しかし、われわれはそのための投資を行い、そこに向かって順調に進んでいる」と話した。婉曲に、中国経済が困難な時期に遭遇していることを認めたのだ。『ブルームバーグ』が伝えた。

 

『フィナンシャル・タイムズ』(6月1日付)は、「JPモルガンCEOが警鐘、『米中対立で国際秩序崩れた』」と題する記事を掲載した。

 

米国と中国の対立により国際秩序が崩れ、企業は冷戦時代よりも難しい対応を迫られている――。米銀最大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)はこう苦言を呈した。

 

(1)「世界第2の経済大国である中国の経済回復が順調に進んでいないことが製造業のデータにより明らかになったこの日、ダイモン氏は中国政府の政策の「不確実性」が投資家の景況感を悪化させているとも主張した。同氏は中国・上海で開かれたJPモルガンの非公開会議で「中国による、米国とその同盟国への行為、各国との関係など、考え方の違いはいずれも解決可能だ」と訴えた。この会議の録音音声によると、「これほどの(複雑な)状況は第2次世界大戦以来だ。対立は冷戦すら上回る状況だ」とも述べた」

 

JPモルガンは2019年、中国で証券事業の完全子会社化を認められた。外資系金融機関として初めての事例だ。現地企業向けに新規株式公開(IPO)の引受業務や、M&A(合併・買収)助言などを手がける。中国は、約60兆ドル(約8400兆円)規模の金融セクターを擁するとされるだけに、このメリットを捨てる訳にはいかない。ただ、現状の中国経済は、多大の不確実性を抱えている。ここは、じっと「我慢の子」に徹するほかないという判断だ。

 

(2)「中国を4年ぶりに訪れたダイモン氏の発言の背景には、中国の生産活動の縮小により同国の成長見通しに疑念が生じ、米国との関係悪化により地域の株式市場が揺らいでいることがある。同氏は米ブルームバーグTVとのインタビューで、中国政府のゼロコロナ政策とコンサルタントやテック部門への取り締まりについて問われ「中国政府に起因する不確実性がさらに高まれば、外国からの直接投資だけでなく、中国市民やそのマインドにも影響を及ぼす」と答えた」

 

下線部は、ダイモン氏の率直な意見だ。中国の不確実性が、海外からの直接投資を阻むだけでなく、中国市民の心理状態も悪化させると警告している。

 

(3)「中国政府も、米コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーやキャプビジョン、米信用調査会社ミンツ・グループなど外国企業を家宅捜索し、テック企業や教育企業など国内の民間企業に対する統制を強めている。不動産投資や与信、産業各社の利益は減り、小売売上高などの指標はアナリスト予想を下回り、中国政府が掲げる23年の成長目標5%の達成に黄信号がともっている」

 

中国当局が「反スパイ法」によって、海外企業を家宅捜査することや民間企業への統制強化を行っている。これは、確実に企業活動を萎縮させる。23年の「5%前後」という成長率目標は、すでに揺らいでいるのだ。

 

(4)「中国商務省の主な指標の一つに基づいて測定される23年1〜4月期の対中海外直接投資(FDI)は前年同期比2.%増の5000億元近くに上った。もっとも、米ドルベースでは3.%減の735億ドル(約10.2兆円)だった。ダイモン氏はJPモルガンの会議で、米規制当局に不満を抱くこともあるが、米国のシステムには「良い面もある」と語った。「透明性や投資家保護、法の支配、大きな市場で事業を運営できる点、汚職を取り締まる適切な法がある点は、国のためになる。金融市場や資本にとってもプラスだ」と評価した」

 

経済活動の根幹は、法の支配・投資家保護などである。現在の中国は、この根本が揺らいでいる。これでは、金融市場の発展はおぼつかない。ダイモン氏は、このように中国へ苦情を言っているのだ。