ロシアの独立系メディア「メドゥーザ」は6月1日、ロシア大統領府がモスクワ市西部にある傘下の「中央臨床病院」敷地内に防空壕を新設する計画だと伝えた。
病院は、郊外の大統領公邸と中心部のクレムリン(大統領府)の間に位置。防空壕はウクライナ侵攻下、プーチン大統領ら要人の避難場所に使われる可能性がありそうだ。
計画は公共事業サイトに掲載された。完成は今年12月下旬の予定。機密情報のやりとりに耐える通信機器を設置するという。『時事通信』(6月2日付)が報じた。
ロシアのウクライナ侵攻は、遠い戦争から「近い戦争」と変わってきた。これは、確実にプーチン氏の戦争計画がいかにずさんで間違っていたかを証明する証拠になる。もはや「特別軍事作戦」どころの話でなく、モスクワまでが攻撃対象になって来たことを示している。
『CNN』(6月2日付)は、「戦争がロシアの玄関口へ 今や安心できない近さに」と題するコラムを掲載した。筆者のマイケル・ボチュルキウ氏は、世界情勢アナリストで欧州安全保障協力機構(OSCE)の元広報担当官である。
プーチン氏の甲冑(かっちゅう)には割れ目ができている。ロシア領への攻撃がますます頻発し、ロシア国内の他州にまで広がれば、いずれはプーチン氏の権力維持にとって重大な転換点が訪れる事態も考えられる。
(1)「ロシア義勇軍団(RVC)と自由ロシア軍団による直近のロシア領越境侵入は、たとえ何らかの形でウクライナ政府との関連があったとしても見事なタイミングで遂行された。侵入に踏み切った時、ロシア軍は前線の別の地点に気を取られ、領土の獲得と占領地の防衛を試みていた。ロシア義勇軍団と自由ロシア軍団は、見たところウクライナを支持するロシアの義勇兵で、プーチン政権の打倒を目指している。RVCと異なり自由ロシア軍団は、ウクライナ軍司令部の指揮下で戦っていると主張。そこには「ロシア人としてウクライナ軍に加わり、プーチン率いる武装したギャングと戦いたい」との思いがある」
ロシア人によって組織されている「ロシア義勇軍団(RVC)と自由ロシア軍団が、プーチン氏の始めた戦争へ「ノー」を突きつけている。これは、プーチン氏の「聖戦」を完全に否定するものだ。ロシア国民にとってはショックな出来事だろう。
(2)「2つの反政府グループに関する情報が世界に広がり始めると早速、米紙ニューヨーク・タイムズはRVCのリーダーとネオナチの分裂派との関係にまつわる記事を発表した。従来これらのグループの名前は、現地の情報を密接に追っていた我々の間でさえもほとんど知られていなかった。仮にニューヨーク・タイムズの記事が事実なら、クレムリンの情報操作マシンがこれを利用し、ウクライナをナチスの温床として印象付ける可能性がある。これは今回の侵攻における誤った前提の一つだ」
ロシアは、前記二つの「ロシア人部隊」を利用して、「ネオナチ」というデッチ上げ情報に利用する危険性がある。
(3)「越境侵入がプーチン氏への脅威となるのか、なるとすればどれほどの大きさか、断定するのはほぼ不可能だ。しかし、自国内を移動するのに大統領専用機ではなく装甲列車に乗っていると伝えられる人物が、現時点で平穏な夜を過ごしているとは考えにくい。戦争がここまで全く計画通りに進んでいないのであればなおさらだ。ロシアの民間軍事会社ワグネルを率いるエフゲニー・プリゴジン氏ですら先週、国民が政権転覆に動くかもしれないと警告した。いわゆる「特別軍事作戦」がこのまま成果を挙げずに推移するなら、そうした状況も起こり得るという」
「ロシア人部隊」による越境侵入は、ロシア国内で「反プーチン運動」を刺激する効果があろう。プーチン氏にとっては頭痛の種が増えた。
(4)「プーチン氏がこの戦争を自分から終わらせることはないと考えるのは理に適う。停戦や和平協定に応じるつもりはないだろう。むしろ本人は、時間稼ぎをすることで勝利できると信じ込んでいるように見える。一般市民の巻き添え被害に、プーチン氏は決して関心を払わない。気にかけるのは自身の安全と権力のみだ。しかしここへ来て、モスクワと前線の間の緩衝地帯は急速に狭まりつつある。従って、自ら始めた戦争が安心できないほど近づく中、プーチン氏が現職に就く日数も目減りしていく可能性があると、筆者は考えている」
プーチン氏は、9月過ぎに来年のロシア大統領選挙を控えて、何らかの「休戦交渉」を提案するとの予測が出ている。米国は、これを見越してウクライナへ7月までに反攻作戦の成果を出すようにと要請しているというのだ。「ロシア人部隊」の反プーチン作戦が、意外な形でプーチン氏を追い詰める材料の一つになる可能性が出てきた。「プーチン終わりの始まり」と見られる理由だ。
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