中国で始まった鳴り物入りのEV(電気自動車)競争は、「初物人気」が終わって、次の本格的な競争が始まるまで「小休止」に入る。中国は今、本格普及時代にどれだけの企業が生き残れるか注目されている。本来のクルマづくりの実力が問われる分岐点にさしかかった。
この際、業界分析に必要な知識は「キャズム理論」である。新製品が、市場に本格普及するために越えなければならない溝だ。中国EVは現在、この溝に阻まれている。これまでの「独走」が、今後も続く保証がないという分岐点に来ているのだ。
トヨタがEVで、全固体電池をひっさげて27年までに登場するが、まさにこの「キャズム理論」通りのビジネス仕法で先発組を追い抜く体制を固めている。トヨタは、セオリー通りの「戦い方」である。
『Merkmal』(8月23日付)は、「覚醒する中国人消費者、自国NEVは前途多難も 自動車『本来の価値』に気づき始めたという脅威」と題する記事を掲載した。筆者は、大庭徹(技術開発コンサルタント)氏だ。
2023年、50万円の電気自動車(EV。プラグインハイブリッド車(PHEV)とバッテリー電気自動車(BEV)の総称)として話題になった「宏光MINI」の販売激減など、EVをめぐるさまざまな変化が起きており、特に世界最大の中国市場は混迷を極めている。中国における新エネルギー車(NEV。定義はEVと同じ)の今後を、最新状況を踏まえて予測する。
(1)「中国の自動車販売台数は、2017年の約2888万台をピークに、コロナや半導体不足の影響で一時的に落ち込んだ。2022年には2686万台まで回復し、2023年前半は前年同期比8.3%増となったものの、伸び率は鈍化している。2023年のNEV普及率は、人口1000万人以上の大都市では40%近いのに対し、人口50万人以下の町では20%と大きな差がある。地方都市は大都市に比べて補助金の財源が少なく、年収の差、充電インフラや販売店の少なさも普及率を下げる要因となっている」
EVの普及率は大都市が50%程度、50万人以下の都市では20%と差が出ている。補助金政策の差でもある。
(2)「コンサルタント会社のオートモビリティは、「中国の自動車市場の過剰生産能力は年間約1000万台」と見積もっている。これは、2022年の米国販売台数1423万台のほぼ70%に相当する。さらに、BEV用のバッテリーパックも過剰生産されている。主要産業の発展戦略を策定する中国の国家発展改革委員会は、生産能力の過剰を懸念しており、NEV工場の新設承認には慎重な姿勢を示している」
EVでも過剰生産能力が問題になっている。当局は、EV工場新設に慎重である。
(3)「トヨタ、フォルクスワーゲン(VW)、ゼネラルモーターズなど、中国市場への依存度が高い企業は中国市場から撤退するのか、加速するのか、彼らは決断を迫られている。VWはシャオペンと提携し、トヨタは中国第一汽車集団、広州汽車集団(GAC)、BYDの3社との合弁で中国でのNEV開発を強化する。一方、三菱は撤退を検討し始め、日産も撤退の危機にある。2019年には約500社あった新興NEV企業は現在100社程度に減少しており、しかもBYDとテスラがNEV市場の約半分を占めている。将来的に中国の自動車企業は5社程度に減るという見方もある」
海外の既存大手自動車企業は、今後の戦略について選択を迫られている。三菱は撤退を検討し始め、日産も撤退の危機にあるという。2019年には約500社あった新興NEV企業は現在、100社程度にまで減少してきた。将来的には、5社程度に絞られるという。
(4)「中国の2023年上半期のBEVの普及率は、20.5%(欧州は12.9%)に達した。ただ、優遇政策による押し上げを考慮すると現在は、(マーケッティング理論である『キャズム理論』によれば)普及率16%までの「初期市場」から「主流期」への過渡期に入った段階と見られ、消費者の価値観の変化に対応した開発・販売戦略の見直しが必要になる。米調査会社J.D.パワーは6月に実施した調査で、「開発期間の短縮と複雑な技術への適応不足」によるNEV関連の不具合の増加と、「顧客の価値観と品質管理にもっと注意を払う必要がある」と指摘している。中国の消費者もまた、「車本来の価値」の重要性に気づき始めている」
このパラグラフは、世界のEV市場を予測する上でも極めて重要だ。「キャズム理論」によれば、普及率が16%で「初期市場」と規定しており、この段階で消費者による企業選別が行われる。これが、「キャズム」(深い溝)とされる。現状は、この段階である。ここを通過すると、「主流期」という黄金期を迎える。
消費者は、「初期市場」で「新しさ」を求めるが、「主流期」では「安定」を購買条件にするという。この初期市場から主流期までの「キャズム」が、5年程度必要としている。トヨタが、27年までに全固体電池を武器にEVへ本格参入するのは、極めて理論通りの戦略であることが分る。トヨタの戦略は見事と言うほかない。
(5)「自動車コンサルティング会社のJSCオートモーティブは、「消費者の関心は、自動運転などの先進装備やつながる車から、安全性や性能、耐久性に向かう。今後5年間が勝負だ」と述べている」
EVも自動車である以上、安全性や性能、耐久性が問われる。今後5年間が勝負とされている。トヨタには、その勝負の時間が残されている。


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