エコノミストの間では、ドイツ経済に対して抱く心理的なイメージが安心から不安に変わってきた。ドイツは、高齢化からインフラの老朽化まで構造的問題を抱えている。ウクライナ戦争、金利の上昇、国際貿易の停滞も追い打ちを掛けているのだ。
IMF(国際通貨基金)とOECD(経済協力開発機構)は、ドイツが23年に先進国の中で経済成長が最も低迷するとの見方で一致している。同国で発行部数が最多のタブロイド紙ビルトは「助けてくれ。ドイツ経済が崩壊しつつある」と訴えるほど。GDPで、日本を追い抜くとさえ見えた時期もあったが今や、「欧州の病人」と揶揄される始末だ。
ドイツの連邦統計当局が、8月25日発表した4~6月期のGDP改定値は前期比変わらず。世界的な景気低迷で、ドイツの輸出が落ち込んでいる。製造業が大きく下振れしたほか、消費者には高水準のインフレと欧州中央銀行(ECB)の積極的な利上げの影響が及んでいる。
『フィナンシャル・タイムズ』(8月20日付)は、「回復遅れるドイツ経済 構造改革が立て直しのカギ」と題する記事を掲載した。
世界第4位の経済規模を誇るドイツは、2四半期連続でGDPがマイナス成長となった後、23年4〜6月は横ばいにとどまった。先進国の中では最も成長が低迷している。
不振の主因は、製造業の世界的な低迷の影響がドイツで特に大きかったことだ。ドイツは日本と同様に製造業の総生産に対する寄与度が5分の1と高く、米国、フランス、英国の倍近くに達する。独ハレ経済研究所でマクロ経済部門を統括するオリバー・ホルテミュラー氏は、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格の上昇と貿易摩擦が製造業に深刻な影響を及ぼしたと述べた。資金調達コストの増大と熟練労働者の不足も製造業を「大きく圧迫した」と言う」
(1)「ドイツのガス・電力価格は、昨年以降低下しているが、欧州以外の多くの国よりまだ高い水準にある。また、化学、ガラス、製紙などエネルギー集約型産業の鉱工業生産指数は昨年初めから17%低下し、長期的な低迷が続いていることがうかがえる。英コンサルティング会社キャピタル・エコノミクスのシニアエコノミスト、フランツィスカ・パルマス氏は「ドイツ製造業の見通しは暗い」と言う。従来はドイツ企業が強かった自動車業界では、成長著しい電気自動車(EV)分野でドイツ大手が低価格路線の中国企業に市場シェアを奪われるなど、脅威にさらされていることがドイツの苦境に追い打ちをかけている。ゼネラリ・インベストメンツ・ヨーロッパのシニアエコノミスト、マーティン・ウォルブルグ氏は「ドイツの主要な輸出品である自動車は一段と競争が激しくなっている」と述べた」
ドイツ製造業は、安価であったロシア天然ガスへ依存し過ぎたことが命取りになった。前首相メルケル氏が、米国の忠告を聞かずロシアへ傾斜した結果だ。中国への過度の依存もメルケル氏が主導した。「反米」メルケル氏は、意識的に中ロへ接近したが、その代償は大きくなっている。中国は、台湾リスクを抱えており「深入り禁物」になった。
(2)「英コンセンサス・エコノミクスが8月に実施したアナリスト調査によると、ドイツのGDPは23年に0.35%縮小すると予想され、3カ月前の小幅増から見通しが悪化した。24年の成長率予想も年初の1.4%から0.86%に引き下げられた。他のユーロ圏諸国に比べて、ドイツは08年の金融危機からの立ち直りが早かった。世界貿易が拡大した一方、南欧諸国は銀行・債務危機に陥ったからだ。だが、先頭を走っていたドイツ経済が今や後れを取っている。ドイツのGDPは6月に新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)前の水準をようやく回復したのに対し、ユーロ圏は2.6%上回っている」
ドイツのGDPは、23年マイナス成長が予想されている。24年はプラス成長へ転じるが、小幅である。ユーロ圏全体の平均成長率に及ばない状態だ。病めるEU盟主である。
(3)「独コメルツ銀行のチーフエコノミスト、ヨルグ・クレマー氏は「新型コロナ危機の要因を除くと、ドイツ経済の低迷は17年から始まっている。つまり、構造的問題がしばらく続いているということだ」と指摘した。人件費の上昇、高い税率、抑圧的な官僚主義、公的サービスにおけるデジタル化の遅れによってドイツの競争力はじわじわと低下していると専門家は指摘する。これは、スイスのビジネススクールIMDの世界競争力ランキングで順位が低下していることでも明らかだ。10年前は主要64カ国・地域の中で10位以内に入っていたドイツは、現在22位に低迷している」
ドイツ経済の低迷は、17年から始まっているという。人件費の上昇や高い税率が問題という。これが、ドイツの競争力を奪ってきたというのだ。
(4)「暗い影がドイツ経済を覆っているものの、不振は長くは続かないとみるエコノミストもいる。エネルギー価格が落ち着き、対中輸出が回復すれば、ドイツの周期的な停滞が一段落するという。他のエコノミストはもっと悲観的だ。オランダの金融大手INGでマクロ経済分野のグローバル責任者を務めるカールステン・ブルゼスキ氏は、「ドイツには包括的な改革と投資計画が必要だが、実現にはほど遠い」と語った」
下線部は、楽観的である。エネルギー価格の落着きは好材料としても、対中輸出回復は余りにも希望的過ぎる。現在の中国経済は、一時的なスランプでなく構造的な問題を抱えている。不動産バブル崩壊なのだ。この中国が、成長軌道へ復帰できると見るのは、世界のバブル崩壊の歴史と比べて余りにもかけ離れている。
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