テイカカズラ
   

中国で、50万円のEV(電気自動車)が登場し話題を呼んだ。この企業はあっけなく倒産したが、中国のEV業界は過剰生産の渦中にあり、値下げ競争が激烈である。だが、需要は増えず危機的な状態を迎えている。米国でも、規模は違うがEVの過剰在庫が問題になってきた。これは、EVが世界的に曲がり角にある証拠だ。 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月23日付)は、「EVバブルの崩壊が始まった」と題する社説を掲載した。 

中国の産業政策の失敗が明らかになった今、米国が中国の経済モデルを模倣しようとしていることは、控えめに言っても皮肉な展開だ。崩壊しつつある中国の電気自動車(EV)バブルを見よ。そこには、政府が構築した産業は政府のせいで破綻しがちだという教訓がある。 

(1)「米EV大手テスラは先週、中国での価格を引き下げた。供給が過剰なEV市場で販売台数を伸ばすためだ。テスラと中国国内の他の自動車メーカーは7月、EVの値下げ競争をやめることで合意した。しかしその数日後には、独占禁止法上の政府の懸念を背景に、この合意を破棄した。価格の低下は消費者に恩恵をもたらすかもしれないが、中国の自動車メーカーは赤字を垂れ流し、破綻に向かっている」 

中国は、EVの過剰生産を止めるべく値下げ競争自粛を申し合わせたが、独禁法違反の恐れで撤回。経営破綻企業が増えている。EV需要が頭打ちになった結果で、マーケッティングでは、「キャズム(溝)理論」とされるエアーポケットへ落ち込んだものだ。ここからの脱却には、数年を必要とする。

 

(2)「中国では過去10年間、EVを手掛けるスタートアップ企業が大量に誕生した。消費者向けの購入促進策や企業への直接融資といった政府の支援策に後押しされた。自動車メーカー各社は補助金を得るためEVを大量生産した。政府がメーカーに対するEV生産義務を強化する一方で補助金を減らしたことで、過去数年間に中国EVメーカー約400社が経営破綻に追い込まれた。全国各地の廃棄物の置き場は、技術面で時代遅れとなったEVであふれている。その光景は、政府主導の投資で進められたが未完成で入居できないままになっている住宅開発プロジェクトと重なる」 

中国政府は、EVに補助金をつけて増産させれば、世界のEV市場を一気に支配できると見ていたが、それは甘かった。マーケッティング理論に背く話なのだ。つまり、市場論理は中国政府の意向通りに進まないということである。消費者は、EVという初物に飛びついたが、圧倒的多数の消費者は「様子見」である。現在はこの「助走」段階である。「ホップ」の段階だ。すぐには「ステップ・アンド・ジャンプ」には達しない。消費者の「選球眼」に耐えられるEV登場を待っているのだ。

 

(3)「中国政府はこのほど、業界の苦境を緩和するため、EVの売上税免除措置を延長した。それでも自動車メーカーは製造を義務付けられているEVを売るために価格を下げざるを得ず、利益率は削られる。中国のEV化に向けた規制は米カリフォルニア州やバイデン政権が課しているものと似ており、とりわけ西側諸国の従来型ガソリン車メーカーに打撃を与えている」 

中国政府は強引である。消費者の趣向を無視して増産させてきた。そのギャップが今、現れている。 

(4)「中国にある独フォルクスワーゲン(VW)の合弁企業は今月、EV「ID.6 X」について最大8200ドル(約120万円)の販売奨励金を支払うと発表した。中国国内のゼネラル・モーターズ(GM)シボレーブランドの販売店は、EV価格を25%以上引き下げている。EVは現在、中国の自動車販売の3分の1を占めるにもかかわらず、供給が需要を大幅に上回ったままだ。個人消費が弱まるにつれ、需給の差は拡大する公算が大きい」 

消費者の意向を無視した商品戦略はあり得ない。中国政府は、このことに気づかないのだ。 

(5)「中国で起っていることは、米国で起こる予兆かもしれない。バイデン政権は中国のEV産業政策をまねているからだ。調査会社コックス・オートモーティブは今月、米国のEV在庫が103日間供給できる量にまで膨らみ、ガソリン車の約2倍になったと発表した。自動車メーカーと販売会社は増え続ける供給分を売るためにEVを値下げしている。消費者が支払ったEV価格の平均は5万3438ドルと、前年比で20%低下している。テスラによる値下げと販売奨励金の提供が主な要因だ。フォード・モーターはこのほど、赤字拡大と売れ残り在庫の増加を受けてEVの生産目標を引き下げた。6月末時点の在庫水準は、フォードの「マスタング・マッハE」が116日分、GMの電動「ハマー」が100日分以上だった。しかもこうした事態は景気が拡大する中で起きている」 

中国で起っているEV騒動は、米国でも起る前兆を見せている。米国のEV在庫が、103日間供給できる量にまで膨らみ、ガソリン車の約2倍にもなったことだ。米国でもEVの値下げが始まっている。

 

(6)「従来型の自動車メーカーは、EV事業での損失を補うためにガソリン車の価格を引き上げざるを得なくなるだろう。全米自動車労組(UAW)のある幹部は20日、欧州自動車大手ステランティスがピックアップトラック「ラム1500」の生産をデトロイト郊外からメキシコに移すことも辞さない姿勢を示していると述べた。コスト削減を狙っているのは明らかだ。バイデン大統領が盛んに宣伝するEV関連の雇用は、ガソリン車を製造する労組員の雇用を犠牲にして生み出されることになる」 

米国の従来型自動車メーカーは、EVの赤字をガソリン車の利益でカバーできる範囲でEV化を進めてきた。だが、EV不振が明らかになって赤字が膨らんでいる。EV生産を縮小するほかない。