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世界は、EV(電気自動車)競争に明け暮れている。現状では、リチウム精錬で世界の65%という高シェアを持つ中国が優位な立場である。だが、リチウムイオン電池が持つ不完全性によって、EV需要拡大は「小休止」段階へはいっている。中国のEV過剰生産は、EV需要の弱さを示しているのだ。

 

次世代電池とされる「全固体電池」でも、リチウムを使用する。こうなると、リチウムの精錬で世界最大シェアを持つ中国の優位性が続くという前提が成り立つ。だが、『ケミストリーワールド』誌によると、米国のオレゴンとネバダの州境沿いにある火山クレーターで、最近発見されたリチウム鉱床は世界最大の可能性があるという。米中対立という緊急時には、開発許認可が早められるだろうと見られている。そうなると、米国が一躍リチウム生産で世界首位に躍り出る可能性が出てきた。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月15日付)は、「中国の鉱物資源『武器化』、効力は?」と題する記事を掲載した。

 

風や太陽、水素は無料だ。しかし、それらをエネルギーに変換し、電池に貯蔵し、送電する装置には大量の鉱物が必要であり、その供給は石油やガスよりも偏りが大きい。

 

(1)「S&Pグローバルのデータによると、コンゴ(旧ザイール)は世界のコバルト埋蔵量の43%を、アルゼンチンはリチウムの34%を、チリは銅の30%を、インドネシアはニッケルの19%をそれぞれ保有している。いずれもサウジアラビアの世界の石油生産量に占めるシェア(12%)や、ロシアの天然ガス生産量に占めるシェア(16%)を上回っている」

 

主要な鉱物生産地は、5カ国に集中している。中国は、これらの國から鉱石を輸入して精錬している。この過程では、環境破壊が起っている。先進国が中国へ依存した裏にはこういう事情が潜んでいる。今になってみれば、中国の強みになった。

 

(2)「以上4つの鉱物(コバルト・リチウム・銅・ニッケル)はいずれも上位5カ国が世界の埋蔵量の半分以上を占めている。S&Pのデータによると、石油とガスは上位5カ国が占める割合は半分に満たない。下流の精製業務はさらに偏っている。中国は世界のコバルトの70%、リチウムの65%、銅の42%を精製しており、OPECの石油生産量のシェアをはるかに上回っている。西側政府はかつて、汚れ仕事をいとわない中国の姿勢を歓迎していた。グローバル化はそうした相互依存を育むはずだった。今は違う。中国・ロシア側と米国・同盟国側との間で新たな冷戦が勃発しており、両陣営は相互依存を武器化している」

 

グローバル経済による相互依存体制では、主要鉱物資源を持たなくても自由貿易の中で解決できた。現状は、この体制が崩れた以上、西側諸国は別途、対策を取らざるを得ない。

 

(3)「中国ほど相互依存を武器にしている国はない。政治的に対立する国との輸出入を絶えず禁じ、自国の企業を後押しするために外国企業を差別している。7月には、半導体やミサイルシステム、太陽電池の製造に不可欠な2種類の鉱物(ガリウムとゲルマニム)の輸出を規制すると発表した。米国は今、そうした脆弱さを限定しようと急いでいる。昨年成立させたインフレ抑制法で、電気自動車(EV)やバッテリー、再生可能エネルギーへの補助金を打ち出したが、その生産に使用する鉱物は米国や米国と自由貿易協定を締結している国から調達することを受給の条件とした

 

中国は、主要鉱物資源を武器にして対立国へ経済的な威圧を掛けている。7月には、ガリウムとゲルマニムの輸出規制を行うと発表した。下線部に示したように、西側諸国は中国に依存しないで主要鉱物を供給する必要に迫られている。

 

(4)「世界のコバルト生産の90%は2035年に、自由貿易国以外が占めるようになる。そのほとんどは、コンゴで生産されており同国は生産量の70%を中国に輸出している。これらの鉱物は、実のところ供給不足に陥ってはいない。米国だけでも自国の需要の20年分に相当する銅の埋蔵量があるとS&Pは指摘している。問題はその利用にある。S&Pの推計によると、鉱山が発見されてから生産に至るまで平均15年かかる。この長期期間をいかに短縮するかである。米国は特に遅く、許認可を得るだけでも7~10年かかる。オーストラリアやカナダが23年しかかからないのとは対照的だ。米国では1970年代以降、銅の精錬所や製錬所が建設されていないという」

 

世界のコバルト生産は、中国が2035年までに70%を占める。だが、悲観には及ばないという。世界中に資源は未開発のままになっているからだ。それをいかに早く資源化するか。そういう時間との勝負である。

 

(5)「エネルギー鉱物は燃料ではない。一部の重要鉱物を奪われれば、「EVのコストは上がり、洋上風力発電プロジェクトは難しくなるだろうが、車に銅を補給するための列が作られることはないだろう」。エネルギー歴史家でS&Pグローバルの副会長を務めるダニエル・ヤーギン氏はこう話す」

 

エネルギー鉱物は、原油や天然ガスという燃料とは違い、世界各地の資源探索で発見される。それを、いち早く資源化するかで解決できるとしている。