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中国の信託大手・中融国際信託は9月15日、一部の信託商品について期日通りに支払いができなかったと表明した。同社は7月末と8月にも複数の投資商品の支払いを履行できず、立ち往生している。信託は、シャドーバンキング(影の銀行)の一角だが、中融を巡る問題はこれまで知られていたよりも根深い問題を示唆している。

 

中融は、前記の発表と同時に中信信託、建信信託の両社と「委託管理サービス」契約を締結し、両社が「業務・管理について専門的なサービス」を提供すると表明した。これにより「会社の業務・管理効率が改善する」としている。具体的な意味は不明である。中融が先々、前記の二社に吸収合併されるのでないかという見方も出ている。『ロイター』(9月16日付)が報じた。

 

信託商品の損益は、投資家に帰属し損失が出ても信託会社は補塡しないのが原則だ。中融信託は、「信託商品の投資家に対する受託者責任は当社が引き続き負う」としているが、今回の契約で問題が起きている信託商品の償還につながるかどうかは不透明だ。

 

中融信託は顧客から預かった信託資産6293億元(約12兆円)の11%を不動産、8.5%をインフラ関連で運用している。中融信託の主要株主で、炭鉱業や金融業を手掛ける民営複合企業、中植企業集団に資金の一部がまわっていた可能性が指摘されている。『日本経済新聞 電子版』(9月16日付)が報じた。

 

信託商品は、損失が出ても信託会社は補塡しないのが原則とされる。損失は、資金を預けた顧客側にある以上、中融信託は7月以降の支払いができずとも、法的責任はないので企業は存続できる仕組みだ。投資家は、泣き寝入りさせられる可能性が高い。

 

『ロイター』(8月21日付)は、「中国・中融国際の支払い遅延問題、投資家が当局の介入要請」と題する記事を掲載した。

 

中国の信託大手、中融国際信託が運用する数十本の信託商品で支払いが滞っている問題で、顧客である投資家は規制当局に書簡を送り、介入するよう懇願した。

 

(1)「国家金融監督管理総局に宛てた書簡によると、中融は7月28日以降、少なくとも22本の商品の支払いを期限までに履行できていない。これら商品の規模は1600億~2000億元(219億6000万274億3000万ドル)に上り、約3万人の投資家が影響を受けているという。ロイターが書簡を閲覧した。中融の投資家は書簡で、同社が支払いを履行できていない商品について裏付け資産の報告を求めた」

 

中融は、約3万人の投資家が最大限4兆円の被害を受けているという。信託は、最終的に投資家責任とされるので、法的手段に訴える道はない。

 

(2)「信託はシャドーバンキング(影の銀行)の一角で、中融は不動産へのエクスポージャーが高い傾向があった。ただ、不動産部門は2021年以来不況に見舞われている。書簡はまた、支払いが可能になる時期の説明を求めた。当局に対しては、この問題を経済の汚点にしないよう訴えた。投資家は汚職摘発を担う中央規律検査委員会にも書簡を送り、中融の経営陣が責任を果たさず投資家に大きな損失をもたらしたと批判した。

 

投資家は、国家金融監督管理総局以外に、汚職摘発を担う中央規律検査委員会にも書簡を送っている。

 

中融が、7月以降の資金繰りがつかなくなった理由として、『ブルームバーグ』(8月16日付)は次のように報じられている。

 

(3)「中融の王強・取締役会秘書は流動性が「不意に」枯渇し、短期債務を履行するのが困難になった。裏付け資産のほとんどが、長期で流動性が低いためだと説明した。この商品は、新商品から得た資金を他の投資家への支払いに充てるという以前広く行われていた慣行に幾分類似していると語った。この方法は数年前に規制当局によって禁止されている」

 

このパラグラフは、重大な事実を暴露している。信託で集めた資金は長期運用しており、資産流動性が極めて低い。だが、短期の契約で資金の元利金を返済できたのは、信託への新規申込み資金を充当する「自転車操業」であった。こういうカラクリであれば、新規申込みがなくなれば、既契約者への元利金返済はストップする。この方法は、数年前に規制当局によって禁止されているという。この点が、当局の取り調べに発展する可能性もあろう。だが、資金は戻ってこない。不動産市場が正常化して、貸付先企業の資金繰りが回るようになれば返済も可能だが、その時期が何時になるかは不明である。