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中国地方政府は、厳しい財源難に直面している。地方税収に匹敵する規模だった土地使用権の売却収入が、不動産市場の低迷で大きく落ち込んでいるからだ。23年1〜7月は2年前の同時期と比べて45%もの大幅減少となっている。そこで、編み出されたのが警察による軽犯罪取締り強化による罰金徴収である。旧中国時代、地方の軍閥は通行人から勝手に「通行税」を徴収していた。これと変わらぬ事態が起っている。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月18日付)は、「中国地方政府が頼る『警察の罰金』、貴重な財源に」と題する記事を掲載した。

 

中国経済が低迷する中、資金繰りに窮した地方政府は従来とは異なる収入源を求めている。そこで最大の収入源として浮上したのが警察だ。

 

(1)「国営メディアによると、中国全土の地方警察やその他の法執行機関は、地方政府の財源を潤す方法として、交通違反や営業・安全規則違反、その他の軽犯罪に対して、より高額な罰金を頻繁に科している。中には、確かな証拠がほとんどないにもかかわらず、地元警察が管轄を越えて容疑者を追うケースもある。弁護士や国営メディアは、不正に得たとされる利益を差し押さえる狙いがあると指摘している

 

法律違反者を取り締る警察が、法律を悪用している。まさに、笑うに笑えない中国経済疲弊の実態を象徴する話だ。原因は、不動産バブル崩壊による土地売却収入の大幅減である。2021年には、地方政府による財政収入の40%が土地売却収入によるものだった。23年1〜7月は2年前の同時期と比べて45%もの大幅減少だ。ここまで落ち込むと、背に腹はかえられない。「権限悪用」が始まるのだろう。法を守らせる警察が、逆のことを始めている。国民の支持を失う行為だ。

 

(2)「中国北東部の警察官は、違法なマルチ商法に関与している容疑で動画配信サービスを提供する新興企業フューチャー・ラーニングの幹部を拘束するため、600マイル(約970キロメートル)以上離れた北京まで車を走らせた。同社は、捜査当局が管轄を越え、自社の資産を狙って容疑をでっち上げていると非難した。別の例では、中国の暗号資産(仮想通貨)取引所ハブデックスの開発者が、東部江蘇省無錫市の警察が管轄を越えて、同社が違法なマルチ商法を行ったとして捜査を開始したと主張した」

 

警察は、管轄外の地域まで出て行き「事件化」させている。まさに「悪徳警察」そのものである。

 

(3)「中国政府は、積極的に資産を差し押さえ、罰金を科して収益を上げる慣行を非難しており、そのようなやり方を「利益追求の法執行」と表現している。中国経済がコロナ禍からの鈍い回復と不動産バブル崩壊に苦しむ中、この長期にわたる現象が再燃している。これを受け、市場規制当局は今月、財源を満たすための権限悪用に対する新たな取り締まりを発表した。ゼロコロナ政策を実施するための費用が多くの地方政府の債務問題を悪化させた一方で、土地売却の急減が地方政府から重要な収入源を奪った。中国財政省のデータによると、昨年の地方政府の土地関連収入総額は前年比23%減となった

 

諸悪の根源は、土地売却益にたよる地方政府の財源構造にある。いったん、土地売却益という「麻薬」に手を染めてしまった以上、ここから抜け出すには想像を絶する苦難が待ち構えている。増税しかないのだ。これは、経済を疲弊させる。

 

(4)「切羽詰まった地方政府は収入を増やす方法を模索した。一部の自治体は架空取引に頼り、簿外の資金調達手段によって、国有の土地や資産を自分たちから購入した。また、罰金や手数料、資産の差し押さえによって収入を得るために強制執行を強化しているところも多い。例えば5月には、中部河南省の当局が重量制限を超えたトラック運転手に対して異常に重い罰金を何度も科していると国営メディアが報じ、世間を騒がせた。ある運転手は2年間で58回も罰金を科され、合計約3万8000ドル(約560万円)を支払ったと主張した」

 

地方政府は、自らの「融資平台」(金融と建設を併営)を使って、架空の土地売却を行いその収益を財源に繰り入れている。「融資平台」に隠れ債務をつくっていくのだ。この隠れ債務が、中国全体で1300兆円以上と推計されている。「隠れ債務」ゆえに、正確な数字が分らないのだ。

(5)「ある当局者はこの報道の中で、「コロナ禍の3年を経て、財政は底をついている」と述べている。「法執行が基準に達するようにすることが求められ、要するに、科されるべき罰金は科さなければならないということだ」。当局はその後、法執行当局者が罰金を科すノルマは設定していないとした」

 

警察は、自らの行為を正当化している。罰金にノルマはないと言うが、実態は不明である。

 

(6)「財政省は、公安当局が押収した資産(密輸事件を除く)を財源として使用することを認めている。中央政府は、地方の公安当局が管轄を越えて事件を扱う場合には制限を設けているが、当局者や弁護士によれば、警察は十分な額の金銭的または政治的見返りが得られる事件を追及するためなら、こうした規則に背くこともいとわないことがあるという

 

警察が、管轄外の地域まで出かけて捜査するのは、「百鬼夜行」という印象である。法秩序が、崩れ始める一歩であろう。中国経済の実態は想像以上に窮迫している。