中国とEU(欧州連合)の両外相は9月16日、マルタで会談した。その席で王氏は、双方は「開かれた態度」を維持し、自由貿易を断固として支持し保護主義を拒否し、中EU協力のプラス効果を達成すべきだと述べた。EU委員会が13日、EV(電気自動車)の対中輸入に関して補助金調査を行うと発表したことを受けての発言で、EUを牽制していることは明らかだ。
EUは、リチウムイオン電池や燃料電池でも2030年までに中国に依存する恐れがある。このため、強力な対応が必要と認識していることがわかった。ロイターが入手したEU首脳向けの文書で明らかになったものだ。
『ロイター』(9月18日付)は、「EU、電池で中国依存の恐れ『ロシア頼み並みに深刻』と警告」と題する記事を掲載した。
EU首脳向けの文書は、10月5日にスペインのグラナダで開かれるEU首脳会議で欧州の経済安全保障に関する議論のたたき台となる。会議では、中国の世界的な存在感の高まりと経済的な影響力を懸念し、欧州が中国に過度に依存するリスクを減らし、アフリカや中南米に調達先を多様化する必要性について議論する。
(1)「文書は、太陽光や風力などの再生可能エネルギー源は供給が時々止まるという性質があるため、欧州が50年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロとする目標を達成するためには、エネルギーを貯蔵する手段(注:大型蓄電池)が求められると指摘した。その上で、「これによりリチウムイオン電池や燃料電池、電気分解装置の需要が急増し、今後数年間で10~30倍になることが見込まれる」との見通しを示した」
自然エネルギー依存によるリスクは、原発と違って安定的な供給ができないことだ。気象条件によって変化するので、大型蓄電池を備えてバッファーにしなければならない。
(2)「さらに、「強力な対策を講じない限り、欧州のエネルギーエコシステムは30年までに、ウクライナ侵攻前のロシアとは異なる形で、深刻な中国依存に陥る可能性がある」と警告した。EUは電気分解装置の中間・組み立て段階で、世界シェアの50%超を握っているが、電気自動車(EV)に不可欠な燃料電池やリチウムイオン電池は中国に大きく依存している。文書はまた、EUの脆弱性は電池分野に限らないとした上で「同様のシナリオがデジタル技術分野でも起こる可能性がある」と警鐘を鳴らした」
EUは、すでに中国EV(電気自動車)の輸入シェアが高まっていることから、ダンピング調査へ着手する。同様に、リチウム電池などの対中依存度が高まる危険性は、ロシアのウクライナ侵攻で明らかになったので引下る必要性に迫られている。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月22日付)は、「中国抜きEV供給網の構築 目指すはアフリカ」と題する記事を掲載した。
欧米の鉱山会社は、中国抜きで電気自動車(EV)用電池のサプライチェーン(供給網)を構築しなければならないというプレッシャーに直面している。そのため、長い間避けてきたアフリカでの金属加工を余儀なくされている。
(3)「中国は、エネルギーシフトの鍵となるコバルトやリチウムといった重要鉱物の生産と加工の両方を支配している。そのため、米国など西側諸国の間では、中国に依存することへの懸念が高まっている。一部の欧米企業や投資家は現在、アフリカ大陸で採掘した原料を現地で精製し、欧州と米国に直接輸出できるよう、アフリカに加工施設を建設し始めている。このような投資は、欧米の経営者がアフリカの多くの国々に伴うリスクをいかに受け入れるようになったかを示している。インフラが脆弱(ぜいじゃく)であったり、熟練労働者が限られていたり、中には政府の汚職で悪評が立つ国もある。また、アフリカで加工施設を建設すれば、自国の土壌から採掘した金属や鉱物の現地加工を増やすことを長年求めてきたアフリカ各国政府の要求に応えることにもなる」
欧米が、コバルトやリチウム精錬から手を引いていたのは環境破壊という「汚れ仕事」であったことだ。中国は、それをうまく利用してきた。欧米企業も、アフリカで精錬事業を始めざるを得なくなっている。
(4)「英豪系鉱業大手BHPグループは、米国を拠点とするライフゾーン・メタルズとともに、タンザニアのニッケル鉱山に2022年から1億ドル(約145億円)を投資し、現地で精製工場を建設する計画だ。BHPによれば、この種の施設はアフリカで初めて。26年には米国と世界市場に向けて電池グレードのニッケルを供給する見通しだという。「われわれにとって絶好のタイミングだ」とライフゾーンのクリス・ショウォルター最高経営責任者(CEO)は言う。「相当な需要があるだろう」と指摘する」
BHPは、アフリカでの精錬によって26年からニッケル供給を始める。トヨタの全固体電池は26年から本格化する。これに合わせるような形だ。
(5)「電池用金属の需要急増が予想されることや、中国が現在この業界を支配していることから、アフリカの加工施設への投資は今後増加する可能性が高い。オックスフォード・エコノミクス・アフリカのアフリカ・マクロ経済担当責任者、ジャック・ネル氏はそう指摘する。こうした動きは、トレンドの始まりのようだと述べている」
中国は、リチウム鉱石を輸入して国内で精錬している。BHPは、鉱石を生産するアフリカで精錬するので、中国よりもコストが安くなるはずだ。
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2023-09-18 |
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