欧米は、中国のEV(電気自動車)に神経を使っている。これまで、自動車は欧米が独占的な強みを発揮してきたが、EV登場でこの構図が狂い始めている。中国が、政府補助金をテコに輸出攻勢を掛けているからだ。
欧州の雇用先は、約6%が自動車産業である。それだけに、中国EVが欧州へ輸出ドライブを掛ければ雇用喪失問題が起ることは確実だ。これによって、社会不安を生んで極右の政治勢力台頭というリスクをはらんでいる。単なる経済問題を超えて政治問題へ発展する危険性が指摘されている。
『フィナンシャル・タイムズ』(9月18日付)は、「中国EV台頭が米欧の保護主義招く」と題する記事を掲載した。
「中国と自由に貿易をしよう。時間は私たちの味方だ」――。中国が2001年に世界貿易機関(WTO)への加盟を果たす前、当時の米大統領だったブッシュ氏(第43代)は自信を持ってこう発言していた。ところが、それから20年以上が経過した今、時間は中国の味方だったというのが西側の一般的な結論となっている。中国は習近平国家主席の下、むしろ閉鎖性と独裁主義を強めていった。米国に対しても強硬姿勢を鮮明にし、急速な経済成長を糧に軍事力の強化も進めた。
(1)「米政策当局者の中には、中国のWTO加盟を認めたのは間違いだったとする向きもある。彼らは、中国はWTO加盟によって輸出を急拡大させることができたわけで、そのことが米国の産業空洞化に拍車をかけたとみている。そしてそれに伴い米国で格差が拡大したことがトランプ前大統領を登場させる一因につながった、と。この流れを踏まえると、厄介な疑問が浮上してくる。「グローバル化は、中国の民主主義を推進するどころか、米国の民主主義の弱体化をもたらしたのではないか」との見方だ。現状を踏まえれば、笑うに笑えない皮肉と言える」
中国のWTO加盟を認めたのは失敗とする意見が、トランプ政権(当時)から強く出ていた。WTOには罰則規定がないので、中国はこの抜け穴探しを行ってきたという非難だ。
(2)「欧州連合(EU)では、米国が先に保護主義へ傾き、自国の産業に多額の補助金を提供するようになったことに失望する声が多く上がっていた。しかしEUは9月13日、中国製の安価な電気自動車(EV)のEUへの流入を問題視し、中国政府によるEV産業への補助金提供が競争を阻害していないか調査すると表明した。このニュースは、EUも米国と同様の道を歩み始めたことを示している。米国の中国製自動車に対する関税は27.5%だが、現時点のEUの同関税は10%と低い。しかし、もしEUが中国は自動車メーカー各社に不当な補助金を支給していると判断すれば、関税は大幅に引き上げられる可能性がある」
中国が、WTO規則を無視する以上、保護貿易で対抗するほかない。これは、トランプ政権の見方であり、バイデン政権も引き継ぎ強化している。米国の中国製自動車に対する関税は27.5%である。これによって中国EV輸入を防いでいるのだ。EUも、これに従うであろう。
(3)「EUが、米国の後を追って実際に保護主義に傾くのであれば、それは米国と同じ理由による。つまり、中国のやり方は欧州の産業基盤、ひいてはその社会および政治の安定性をも脅かしつつあるという懸念だ。中でも自動車産業はEU、特にドイツにとって最も重要な産業で、EU経済の中核を成す。しかも自動車は欧州が世界をリードする数少ない産業分野の一つだ。売上高でみた世界4大自動車メーカーのうち、フォルクスワーゲン(VW)、ステランティス、メルセデス・ベンツ・グループの3社は欧州企業だ」
自由貿易は理想型である。中国は、この抜け穴を利用して急成長したという認識が欧米に強いのだ。これは、ロシアのウクライナ侵攻への中国支援によって強くなっている。
(4)「欧州委員会によれば、自動車産業はEUの全雇用者数の6%強を占める。その給与水準は往々にして比較的高く、ドイツなどにとっては自国のアイデンティティーにもなっている。それだけにこうした雇用が中国に奪われることになれば、それは政治的にも社会的にも大きな反発を招くことになる。ドイツでは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」への支持がすでに拡大しており、世論調査では2位の人気政党となっている。独自動車大手のBMWに代わって中国の自動車大手BYDの車がアウトバーンを走るようになり、国内の自動車業界が不振に陥れば、AfDへの支持がどうなるかは容易に想像できるだろう」
ドイツでは、極右政党が支持率を高めている。ドイツ自動車業界が不振に陥れば、極右政党が跋扈するのは不可避であろう。民主主義を守るためにも、中国EV進出を阻止しなければならない。こういう論調が強くなっているのだ。
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2023-09-18 |
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