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中国の住宅不況は、日に日に深刻の度を加えているが、商業用オフィスの空室率も高まっている。中国主要18都市の6月の高層オフィスビル空室率は約24%になった。主因は、オフィス供給が増えすぎていることと、テック企業不振で撤退している結果だ。今後はさらに高層ビルが竣工するのでオフィスの供給が増える見込みである。

 

米国は、6月のオフィス空室率が18.2%と30年ぶりの高水準となった。理由は、在宅勤務の増加である。米国では、オフィスを住居にする動きも起きている。ニューヨーク市は8月、マンハッタンなど市内の中心地区で使われていないオフィスを住宅に転用するための新たな計画を発表した。

 

日本のオフィス空室率は、東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)で8月に6.%だった。大阪は4.%、名古屋は5.%と、他地域もコロナ禍前水準を超えて推移するが、在宅ワークの増加が背景にある。中国とは、事情が全く異なる。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月21日付)は、「中国のオフィス市場、厳しさは米国以上」と題する記事を掲載した。

 

ここ数年で最悪の景気減速に見舞われている中国では、深センや武漢などかつて活況を呈した都市で多くのオフィスが空室のままで、賃料も下落している。不動産サービス会社CBREによると、中国主要18都市の6月の高層オフィスビル空室率は約24%だった。米国の6月のオフィス空室率は、18.2%と30年ぶりの高水準となった。ただ、中国のオフィス市場は米国とは異なり、ハイブリッド型勤務へのシフトが打撃になっているわけではない。欧米では出社と在宅を組み合わせたハイブリッド型の普及で、企業のオフィス需要が減っている。

 

(1)「中国が直面しているのは、より根本的な不動産問題だ。つまり建設業者が単に物件供給を増やしすぎ、経済は今、それを吸収するには弱すぎるということだ。中国は4~6月期の経済成長率が前期比ほぼ横ばいで、若者の失業率は7月に過去最高を記録した。国内インターネット大手アリババグループやテンセントホールディングスなどの民間部門に対する締め付けや、企業投資の弱さが、新規の賃貸需要の足かせとなっている。今年は高層オフィスビルの供給が相次ぐため、市場の不振は強まりそうだ。CBREのアジア太平洋調査責任者ヘンリー・チン氏は「底に近づいてはいるが、まだ底は見えていない」と述べた」

 

高層ビルの竣工増加で、オフィス供給が増えている。だが、需要は少ないから空室率が高まる。空室率の高まりの理由は簡単である。数年前、中国の超高層ビル着工数が世界一であることから、「中国大不況」が囁かれていた。過去のケースから割り出された話であった。どうやら、この見方が的中しそうな状況になっている。

 

(2)「大半のアナリストは、中国オフィス市場の影響をそれほど懸念していない。オフィス市場は住宅不動産市場より規模が小さい。ただ両者を併せると、近年は中国国内総生産(GDP)の20%余りを占めている。オフィス物件の多くは、国内の不動産開発会社や保険会社、テンセントのようなテック大手などが所有している。アナリストによると、国内勢の多くは、オフィス資産の損失をある程度吸収できる資金力がある。それでも、オフィス空室率の高さは経済の低調ぶりを示しており、一部の投資家にとって重石となっている」

 

アナリストは、空室率の高まりを懸念していないという。理由は不明だ。新たな需要増加が見込める訳でなく、単なる惰性にもとづく話であろう。中国のGDP推移と深く関わるので、楽観できない。

 

(3)「商業用不動産開発大手SOHO中国は、1~6月期の純利益が93%減の約190万ドル(約2億8000万円)となった。今後3年間でより多くの物件が市場に出るため、賃料と入居率が「持続的な圧力」にさらされるとの見通しを示した。多くの中小企業は、新型コロナウイルス流行で長期化した行動制限の余波でオフィスを手放した」

 

商業用不動産開発大手SOHO中国は、今後の見通しについて悲観的である。IT関連企業が経営不振であることは、オフィス空室率を高める理由の一つになろう。

 

(4)「不動産サービス会社サビルズのデータによると、武漢ではA等級のオフィススペース6万3000平方メートルが新たに稼働し、市中心部でテック企業が集まるオプティクスバレー地区の空室率は6月に30%超と、記録的な高水準に達した。同じくテック企業の集積地で、テンセントや通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)などが拠点を置く深センでは、6月のオフィス空室率が25%を上回り、コロナ流行初期の20年に付けた高水準に近づいた。北京でもテック企業の撤退により、4~6月期のオフィス空室率が18%に上昇し、18年の約3倍の高さとなった(サビルズ調べ)。CBREのデータによると、6月の中国の平均賃料は19年比で7%近く下落した」

 

テック企業の集中する都市では、テック企業の不振を反映して空室率が高まっている。習政権の意図でテック企業抑圧が続く以上、空室率の高止まりは不可避であろう。