中国経済の最大の「ガン」は、不動産問題へ集約されている。大方は、不動産開発企業の抱える過剰負債の返済が困難視されていることから、中国経済の長期停滞論=日本化という捉え方に傾いている。IMF(国際通貨基金)は、長期停滞論を示唆し住宅問題の解決が中国経済回復に急務としている。日本の専門家で、こういう見方を敢然と否定する人がいる。その主張を紹介したい。
『キヤノングローバル戦略研究所』(10月17日付)は、「中国経済悲観論に対する欧米専門家の見方は総じて冷静」と題する記事を掲載した。筆者は、主任研究員の瀬口清氏である。元日本銀行北京事務所長を務めた。
中国日本化論を信じる誤解が多い点については、最近中国を訪問した欧米の中国専門家は筆者のこの見方に賛同した。また、中国を訪問していない中国経済専門家も、現在の中国の不動産市場(3~4級都市中心の中長期的停滞)の状況と1990年代の日本の状況(不動産市場全体のバブル崩壊)が異なる点については共通理解となっている。
(1)「彼らは、リーマンショック後の欧米の不動産市場に比べても現在の中国の不動産市場の停滞は軽微であると見ている。これは、中国の不動産市場の中核部分を形成する北京、上海、広州、深圳、武漢、重慶、成都等の主要都市の市場が依然安定を保持しており、価格が低下しても小幅の下落にとどまっていることによる。その背景には2010年以降、不動産価格が上昇した多くの都市において、住宅購入制限が大幅に強化され、主要都市ではその政策が緩和されることなく現在に至っていることが影響している」
瀬口氏は、不動産開発企業の抱える過剰債務問題について全く触れていない。中国恒大集団や碧桂園という業界1、2位のトップ企業がデフォルトがらみにある深刻さを軽くみているのだ。トップ企業のふらつく業界は、健全経営とは無縁であり、他社もこれに近い状態であることを示唆している。
9月の人民銀行の住宅ローン貸出残高は、初めて減少している。これは、住宅需要そのものが落ちている何よりの証拠である。重慶と天津の直轄市は、いずれも日本流にいえば「財政再建団体」へ指定された。「禁治産者扱い」になっているのだ。債務返済が、地価下落で歳入不足に陥り不可能になっていることは、地価下落=住宅需要不振を裏付けている。
(2)「これらの都市では常に供給を上回る旺盛な需要が存在していたが、政府はそうした取引を厳しく制限していた。このため、不動産を購入したくても購入できない潜在的な超過需要が存在していたことから、今回需要が大幅に低下しても、そうした主要都市では基本的に需給バランスの安定が保持されている。そうした主要都市では産業基盤がしっかりしており、他の中小都市からより良い雇用機会を求めて移住を希望する人口も多い。一方、産業基盤が脆弱な2級都市の一部やその周辺の3~4級都市では不動産の買い手がつかない状況が深刻化し、需給バランスが崩れて価格の大幅な下落に歯止めがかかっていない。このため、不動産開発を主要財源としていた地方財政が悪化し、インフラ 建設も減少し、雇用機会が減り、人口流出が起き、不動産市場の需給バランスがさらに悪化するという悪循環に陥っている」
瀬口氏によれば、1級都市の住宅需要は普通であり、2級都市以下が住宅需要不振に陥っているという。だが、住宅の潜在的需要は2級都市以下にある。この事実から言えば、中国の住宅需要の過半を占める2級都市以下が不振であることは重大問題である。
(3)「これらの都市の状況は日本の1990年代に似ており、回復に転じるまでには少なくとも数年はかかるとの見方が大勢である。これらの都市の大部分の不動産価格は主要都市に比べて5分の1から10分の1以下であるため、面積としては大きいが、不動産取引金額は全体の3分の1程度またはそれ以下と見られている。このため、大手金融機関の破綻からシステミックリスクを招いた日本の1990年代の状況とは程遠い。ただ、その住宅着工面積は大きいため、不動産建設資材の鉄鋼、セメント、ガラス等の素材産業、および家具、家電、内装などが消費に与える影響は大きく、しかも長期化する見通しである」
瀬口氏の議論は、1級都市の住宅需要が健全であるから、2級都市以下の需要が不振でも大勢に影響はないという立場だ。しかし、消費者心理は連動している。地方で悪化していれば、いずれ大都市に及ぶという「波及心理」を無視している。現に、9月の住宅ローン残高は統計を取り始めて以来、初めての減少になった。「木を見て森を見ず」という印象が深いのだ。
(4)「こうした状況が、欧米諸国の信頼できる中国経済専門家の共通認識であるため、不動産 市場停滞の影響は深刻ではあるが、日本の1990年代やリーマンショック直後の欧米の状況に比べれば、その落ち込みの度合いは比較的軽微であるとの見方でほぼ一致している。とくに9月中旬に8月の主要経済指標が発表され、各種指標の多くがやや持ち直しの傾向を示し始めたため、9月以降の指標の回復を期待する見方が増えてきていることも、中国経済専門家の見方に影響している。中国経済を専門としていない国際政治の専門家や有識者、ビジネスマンはそこまで詳しく分析していないことも足許の中国経済の見方の違いの一因となっていると考えられる」
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