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急悪化する消費者心理

対内直接投資マイナス

教条主義へ嵌まる悲劇

一帯一路で寿命縮める

 

中国は、秋口の到来とともに経済活動が冷え込んでいる。10月、国慶節に伴う大型連休も人出は多かったが、人々の財布の紐は固く縛ったままだ。消費者心理は、急速に冷え込んでいる。中国経済を象徴する住宅不況には、なんら改善する動きもない。未完成物件が、全土に放置されたままである。政府は、地方政府に対して工事再開を支援するよう呼びかけているが、財政措置のない「かけ声」に過ぎないのだ。 

この事態を目の当たりにする国民が、「ピーク・チャイナ」「中国経済繁栄は終わった」という実感を抱くのは当然である。習近平国家主席は、こういう国民感情を理解できないほど「雲の上」の人間になっている。習氏は、9月の最高幹部会議で不動産開発企業の救済をしないと発言した。消費者は、未完成物件を掴ませられているが、その心情を全く無視しているのである。政府を信頼できないという国民の絶望感は、全土へ拡大させることになった。

 

急悪化する消費者心理

中国では、商魂たくましく「11月11日」を1並びの日から「独身の日」と名付けてバーゲンセールに利用してきた。不動産バブルと歩調を合わせる形で年々、売上規模が拡大したのだ。刻々と増える売上状況は、テレビで実況放送されるほどで、日本の茶の間にもその熱気が伝わった。高額商品が、次々と売れていく様子に刺激され、新たな需要を呼び込むものだった。この「独身の日」の売上総額は今年、前年比でわずか2%増に止まった。昨年は、14%増であったから「激減」である。 

中国の経済活動は10月に失速した可能性が高い。統計は、昨年との比較で良好に見えても、実際はこれからの経済活動鈍化の芽が隠されているようだ。『ブルームバーグ』(11月14日付)は、こう報じるまでになった。 

現在の中国では、「独身の日」セールスで買い物をするムードにない。失業者が激増している中で、若者はショッピングよりも「職探し」で血眼である。日本企業は、中国で求人を始めているが、日本企業は安定しているという評価で、多くの就職希望者が説明会へ集まっている。「反日の中国」で、嫌いな日本へ就職したいほど切羽詰まっているのだ。 

パリに本社を置くクオントキューブ・テクノロジーは、娯楽・交通に対する中国の消費者需要を示す指標を発表した。また、米モーニング・コンサルタントが独自に行う消費者心理調査でも、10月のデータがいずれも前月から悪化を示している。要するに、中国の消費者心理が急速に悪化に転じていることは、中国経済にとって「底抜け」になる危険性を予告している。

 

すでに、消費者物価指数は10月に2ヶ月ぶりに前年同月比「マイナス0.2%」と落ち込んだ。8~9月は0.1~0.2%のプラスであって、実態は0%を挟んで浮沈を繰返す最悪事態に直面している。中国経済の末端需要が、極度に落ち込んでいることを端的に示しているのだ。日本経済が、不動産バブル崩壊後に落ち込んだ状況と瓜二つである。 

習氏は、こうした事実の出現にようやく深刻さを理解した模様で、会計年度途中で異例の「1兆元」(約20兆5000億円)の国債増発を決めた。中国共産党は、中国政府の財政赤字増大に極端な神経を払っている。それは、次のような事情によるものだ。

中国共産党が、1940年代の内戦時に当時の政権を担った国民党のインフレ政策に反対したことだ。共産党が、国民の支持を得て政権を握れた背景の一つである。これゆえ、財政赤字を増やすことでインフレを招けば、国民の信頼を失うという「恐怖感」が染み渡っている。現在の財政赤字「3%限度」という理由である。

 

だが、現実の中国経済はインフレどころか、真逆のデフレ症状をみせている。財政赤字を増やして、民情を落ち着かせなければならない分岐点である。IMF(国際通貨基金)は、未完成物件で放置されている住宅工事を再開して、国民に安心感を与えることが重要と強調している。この指摘が、習氏の耳には届かないのだ。習氏が、全ての決定権を握っている現状では、いかんともし難い「情報断絶」の現実が横たわっている。難破が分っていても、船長にその情報は届かない。これと同じことが、中国で起こっている。

 

対内直接投資マイナス

中国は、ロシアのウクライナ侵攻を非難しなかったことから、その底意を疑われている。台湾を軍事侵攻する意図を持っているので、あえてロシアを非難せずに容認していると見られているのだ。中国にとっては、これがどれだけマイナスに作用しているか、である。米国は、西側諸国と図って、対中「デリスキング」(リスク削減)に動いている。中国依存の経済関係を減らすことだ。その一つが、直接投資(FDI)減である。この効果が着実に上がっており、今年7~9月期は前年同期比でマイナス118億ドルに上った。 

これが、事実上の外資流出になる。人民元相場安へ繋がるのだ。これだけではない。FDIの減少によって、外資の中国へもたらす技術情報が減ることである。中国は、先進国企業の技術情報を喉から手の出るほど必要とする立場だ。それが、これから期待薄となれば、中国経済にマイナス要因になるのは当然である。習氏は、こういう事態の到来を予想できなかったのだ。(つづく)

 

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