中国は、「失われた30年危機」が忍び寄っている。肝心の出生数が「釣瓶落とし」の状況である。23年は700万~800万人超という悲観的な見方が強まっている。22年が956万人であった。これを受けて、国力の潜在成長率の基盤になる合計特殊出生率は、22年の「1.09」から23年の「1.0割れ」になる危険性が強まっている。そうなれば、中国経済の将来は「透けてみえる」状態となろう。
BIS(国際決済銀行)によると23年3月で、非金融部門の債務残高は375兆元に達した。IMF(国際通貨基金)によると、23年のGDPは107兆元の予測(23年10月推計)だ。対GDP比で3.5倍の債務残高を抱える計算になる。中国は、過剰債務と財政制約のもとで十分な投資ができない状況は近づいている。
『日本経済新聞 電子版』(11月19日付)は、「中国、ゼロコロナ後も出生減 23年900万人割れの予測」と題する記事を掲載した。
中国の少子化が止まらない。2023年の出生数は900万人を割り込み、前年比1割超減るとの予測が出てきた。年初に「ゼロコロナ」政策が終わったが、若者の就職難など将来不安は根強いためだ。将来の働き手不足に備え、法定退職年齢の段階的な引き上げなど対応が急務となっている。
(1)「中国メディアによると、北京大学医学部の喬傑主任は8月「中国の新生児は過去5年で4割減り、23年は700万人以上で多くて800万人超」との見方を示した。シンクタンク、育媧人口研究の専門家である何亜福氏は「850万人前後」とはじく。22年は956万人で初めて1000万人の大台を割り込んだ。政府が全ての夫婦に2人目の出産を容認した16年を直近のピークに5割減った。専門家の予測通り、23年も減少すれば3年連続で、1949年の建国以来の最少を更新する。中国では「ゼロコロナ」政策が終わり厳しい移動制限はなくなったが、景気の回復力はさえない。民間企業の収益回復が遅れ、雇用は伸び悩む。一方、大学など高等教育への進学率が6割となるなど高学歴化で子育て費用はかさむ。将来不安を拭えない若い世代は出産をためらいがちだ」
過去の就職難で大学進学を勧めた結果、ますます大卒が増え失業者も増える悪循環に陥っている。大卒者を受け入れる雇用先がないのだ。せっかくの大卒が失業という事態だ。
(2)「過去の「一人っ子政策」のツケで、出産適齢期の女性が減少している。20年の国勢調査をもとに日本経済新聞が独自推計したところ、20〜39歳の女性人口は30年までの10年間に2割近く減る。子どもを産む女性の母数が減るため、出生数の減少は今後も続く可能性が高そうだ。離婚件数の増加も少子化の一因になりそうだ。中国民政省によると、1〜9月に197万組が離婚した。21年同時期と比べて25%増えた。21年1月に施行した民法典で衝動的な離婚を防ぐ「冷静期間」を設け、離婚届を提出してから30日以内は取り下げられるようにした。21年は一時的に離婚件数が大きく減ったが、女性の社会進出などもあり、離婚抑制という効果は長続きしなかった形だ」
20〜39歳の女性人口の減少と離婚件数の増加が、出生数低下を招いている。「一人っ子政策」の廃止時期を間違え、長く継続しすぎたのだ。
『日本経済新聞 電子版』(11月5日付)は、中国、現実味増す『失われる30年』、市場は失望」と題する記事を掲載した。
政治が何より優先し、経済は従属するに過ぎない。習指導部の姿勢は一段と鮮明になっている。第1期の習指導部が発足した翌年の13年、「資源配分で市場が決定的な役割を担う」とうたった面影は失われた。
(3)「改革開放の後退は、習氏が李克強(リー・クォーチャン)前首相から経済政策の主導権を奪う過程で進んだ。誤りを認めることにもなるだけに、短期的な軌道修正は見込みづらい。調査会社のRHINO DATAによると、23年1〜6月のスタートアップ企業の調達額は3000億元あまりと前年比で25%減った。経済成長は労働と資本の投入、生産性の改善が原動力だ。イノベーションを主導する新興企業の勢いが鈍れば、生産性にはブレーキとなる。アジア開発銀行(ADB)のドミニク・ペシェル氏らは、36〜40年の成長率が2%まで低下すると予測する。3〜4%の成長が見込める今のうちにイノベーションに改めて火を付け、構造問題に着手できるか。保守色を強める習指導部には難題であるだけでなく、そもそも着手する考えも乏しいかもしれない」
新興企業は、米国からの資金流入が途絶えており苦境に立たされている。資金導入先をアラブへ変えているが成果は出ていない。いずれ、米中が同じレベルでGDP成長率を競う時代がやってくる。
(4)「人口減とイノベーションの停滞、財政難による投資の頭打ち。中国経済が抱える中長期的な課題は多い。同時に、目先の不調を示すサインも相次ぐ」
このパラグラフが、中国経済は「失われた30年」へ突入するリスクの大きいことを示唆している。習氏は、それに気づいていないようだ。
コメント
コメントする