中国の習近平国家主席は、先ごろの訪米では「微笑外交」を振り撒いた。米国での中国の台湾侵攻論に強い不満をみせて「平和の使徒」を演じ切った。だが、国内では記者を「工作員」に仕立てるべく資格試験を実施。習氏が重視する「国家安全」「台湾統一実現」「世界一流の軍隊建設」といった戦略の知識を問うものだ。すらすら答えられない記者は、排除されるのだ。習氏が、米国で演じた姿と全く異なることを国内で行っているのである。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月16日付)は、「バイデン・習氏首脳会談は『一時休戦』」と題する社説を掲載した。
ジョー・バイデン米大統領は15日、中国の習近平国家主席とカリフォルニア州で会談した。会談の雰囲気は両国間の良好な関係の新時代を示唆するものだった。しかし、激しい競争の時代と決別したとか、習氏が米国主導の国際秩序を覆そうという野心を捨てようとしているとか、だれかが誤解するようなことがあってはならない。
(1)「現時点で関係が改善しているように見えているのには、両国それぞれの理由がある。習氏は、中国の景気減速を招いている不動産価格の暴落や過剰債務の影響を埋め合わせるために、外国投資や輸出市場を必要としている。習氏はハイテク分野の中国企業に最先端技術の販売を制限する措置や追加の経済制裁の一時停止を望んでいる。習氏は今のところ、中国の「戦狼外交」を担う外交官たちを前面に出してはいない。ただ、彼らはいつでも戻ってくる可能性がある」
習氏の微笑外交の裏には、厳しい経済問題の重圧を軽減するという意図が明らかである。
(2)「バイデン氏は、安全保障上の問題が既に多過ぎる世界において、新たな問題が生じるのを避けるために関係を円滑にしたいと考えている。ウクライナと中東で戦争が起き、ロシアとイランの厄介者たちが問題を巻き起こす中、大統領は少なくとも自身が来年再選されるまで、中国との問題を保留にしたい、とりわけ、台湾を巡って大きな危機が生じるのを回避したいと思っている。双方が会って話をして、互いの理解を深めるべき理由は、確かに存在する。中国が何カ月かにわたって拒否していた軍同士の対話の再開は、有意義な前進だ。人工知能(AI)を巡る透明性と協力の強化も、歓迎される動きだろう」
バイデン大統領が、習氏と会談して不要なトラブルを未然に防ぎたい。そういう意図には、説得力がある。
(3)「中国が、絶え間ない軍備増強の動きや台湾・フィリピンに対する軍事的威圧行為を弱めることになれば、それは関係の真の雪解けの兆候となろう。中国人民解放軍はほぼ毎日、航空機で台湾海峡の中間線を越える行為を活発化させている。空軍・海軍の演習の一部は、台湾への侵攻あるいは軍事的妨害を予感させる類いのものだ。中国は南シナ海の大半についても領有権を主張している。習氏が国際ルールに基づく行動を本当に望むのであれば、軍事的強硬派の行動を中止すべきだろう」
問題は、習氏の唱える平和共存論が本当かどうかという問題だ。経済的な苦境を凌ぐ「時間稼ぎ」でないか、とみられることも事実である。
(4)「習氏はまた、ウクライナで戦闘を続けるロシアに外交的・経済的支援を続けている。さらに、中国のイラン産原油の購入はイスラエルや米国を標的とするイスラム武装勢力にイランが資金提供する助けになっている。これは中国の晩さん会に出席した者ならだれでも知っている同国のパターンだ。中国指導者は、米中両国民の友好関係のためにほほ笑んで乾杯しておきながら、可能であればどこであろうと米国の利益を損なっている」
中国共産党の最終目的は、米国打倒にある。これは、紛れもない事実だ。平和共存論の裏にある「党是」を見落としてはならないというのであろう。
(5)「間もなく81歳になるバイデン大統領が、敵としてどの程度抗しがたい力を持っているのか、直接見定めたいと習氏が思っているのは間違いない。それは、両国関係が再び悪化する事態に備えてのことだ。習氏は、自身の政権下で台湾の中国統合を目指しているが、バイデン氏はアジア太平洋地域で米国の軍事的抑止力を強化することを緊急の課題と捉える姿勢をほとんど見せていない。米国の抑止力が低下したため、世界のならず者国家が欧州と中東の近隣諸国の相対的な弱さにつけ込むことが可能だと考えるようになった。バイデン氏が習氏にこれまでより厳しいメッセージを送った上で、近い将来の軍事力強化によって、それを裏付けることを期待したい」
バイデン氏は、民主党出身の大統領である。その点で、「力の行使」に慎重になるが、抑止力という点では、相手を誤解させるリスクもある。中国が、米国を与しやすしとみれば、台湾侵攻を始めるであろう。これをどのように抑止するのか。それが、問われている。
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