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米国のEV(電気自動車)ブームは、去ったようである。自動車会社は、軒並みEV工場やバッテリー投資の繰り延べに踏み切っている。唯一、積極的企業はトヨタのHV(ハイブリッド車)投資だけだ。トヨタは、EV熱に浮かれず増産体制を取らなかった。EV熱が冷めても影響は軽微である。それどころか、次世代型バッテリーの全固体電池開発に全力を挙げて、27年には全固体電池搭載のEV発売へ漕ぎつける。経営戦略の見事な勝利である。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月20日付)は、米国人の『EV愛』は冷めたのか」と題する記事を掲載した。

 

電気自動車(EV)に対する米国人の浪費癖がやや和らいでいる。限られた予算でEV愛を再燃させるには、新世代の製品が必要だ。電気のみを使用するEV(BEV)の米国における販売台数は急成長の時期が過ぎ、ここ半年は月10万台前後で頭打ちとなっている。在庫が積み上がり、首位の米テスラが先導して価格は下落している。

 

(1)「米国でのEV普及が実際に失速しているかどうかの答えはまだ分からないが、メーカーの予想よりも低迷しているのは明らかだ。米フォードとゼネラル・モーターズ(GM)はともに投資を延期し、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)ですら、10月の決算説明会でそのペースを落とす可能性を示唆した。軌道修正は米国で顕著だが、大西洋を挟んだ欧州でも同様の動きがある。独フォルクスワーゲン(VW)は第4のバッテリー工場建設計画の保留を決めた」

 

EV需要が停滞している。代わって、HVが人気を得ており全固体電池搭載のEVが普及するまでの繋ぎ役を果すものと期待されている。

 

(2)「より大局的に見れば、恐らくはEV熱の第一波をもたらしたテクノロジー好きの富裕層が、すでにEVを買ってしまったということなのだろう。次の波を起こすような顧客層がEVシフトという大転換を遂げるためには、価格の低下、充電インフラの改善、標準となるような特質を備えた新製品が必要になるかもしれない。小さな転換ならもっと簡単で、 ハイブリッド車(HEV)の生産首位のトヨタ自動車は、投資拡大を最近表明した数少ないメーカーの一つだ」

 

EV熱の第一波は、テクノロジー好きの富裕層があらかた購入済みと言える。これは、マーケット論では、「キャズム現象」と言われているものである。数年間の「小休止」後に、EV新製品(全固体電池搭載)が本格的普及を牽引するはずだ。

 

(3)「EV普及への最も強力なブレーキになっているのは価格だろう。例えばS&Pグローバル・モビリティが今月公表した調査によると、消費者のEV購入意欲が低下している最大の理由は費用で、次に充電の問題が挙がっている。皮肉なことに、価格を下げればEVが購入しやすくなるとは限らない。HSBCのアナリスト、マイク・ティンダル氏が指摘する通り、自動車リースでは中古価格が堅調に推移するとの予測を頼りに月々の支払額を抑えている。だが、価格引き下げで中古EV市場に混乱が生じ、そのような予測を正当化することが難しくなっている」

 

ここでは、EV価格の高すぎる点を強調している。現在のリチウムイオン電池によるEV限界が、EVの高価格ぶりをことさら印象づけているのであろう。

 

(4)「唯一の長期的な解決策は、メーカーが抜本的な工程や関連業務の見直しによってコストを下げることだ。テスラと一部の中国メーカーを除き、現時点でEVの生産にかかる費用は販売価格をも上回っている。フォードは、2025年に発売する新製品群はよりスリムな車種にする考えだ。フランスのルノーは15日の投資家向け説明会で、今後45年間で中型EVの生産コストを40%削減する計画を明らかにした。スリムにするためにぜい肉だけでなく楽しい部分もなくすのであれば、消費者はガソリン車を使い続けるだけになるかもしれない」

 

ここでは、リチウムイオン電池EVの限界について全く触れずに議論している。ハッキリ言って、価格の高いことだけがEV売上増を阻んでいるのではない。EV性能が多くの限界を抱えていることだ。

 

(5)「基本的な問題は、多くの金属を必要とするバッテリーと電気モーターが、ガソリンタンクやエンジンよりも高価だということだ。特に米国人が好む大型のスポーツタイプ多目的車(SUV)やピックアップトラックでその傾向が強い。EVの維持費用は相対的に低いが、大半の消費者はガソリン価格が高騰しているときしか燃費に着目しない。メーカーは、平均的な顧客はEVにプレミア価格を支払わないものだと考えておく必要がある」

 

下線部は、EVとガソリン車の比較がガソリン価格の変動に依存する、としている。ガソリン価格が上がればEVへ、下がればEVへの関心が薄れる。全固体電池が実用化されれば、こういうガソリン価格依存度が落ちるであろう。コンスタントにEVへ関心が向くのだ。