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中国国家主席の習氏は、経済政策の的を間違えている。インフラ投資重視によって、国民の生活上の信頼感を得られるとみているのだ。インフラ投資は、景気刺激効果が落ちている。債務を増やすだけである。14億人の国民が、生活への自信を取戻すには、インフラ投資にだけ頼る訳にいかないのだ。中国経済を復活させる手がかりは唯一、国民に生活上での安心感を与えることにある。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月1日付)は、「中国経済の悪循環 断つすべはあるのか」と題する記事を掲載した。

 

中国は恐らく、労働市場と消費者心理の改善なくして崩壊した住宅市場を立て直すことはできないだろう。だが、消費者の活力や労働市場の好調もまた、住宅部門の健全さに依存している。政府がこの悪循環を断ち切る方法を見つけるまでは、中国のさえない景気回復は続くとみたほうがよさそうだ。

 

(1)「2023年の中国の成長は今なお一定しない。中国国家統計局が11月30日に発表した同月の購買担当者指数(PMI)はそれを痛感させるものだった。 建設業PMIがわずかに上昇した一方で、製造業とサービス業のPMIはさらに低下した。サービス業PMIは活動の拡大・縮小の分かれ目である50を今年初めて割り込んだ。経済成長は夏の終わり頃に一時改善したが、すでに息切れしているようだ。製造業の問題の一部は海外にある。サブインデックス(副指数)の新規輸出受注指数は0.5ポイント低下して46.3となり、今年最低だった7月の水準に逆戻りした

 

下線部の新規輸出受注指数が、11月は0.5ポイント低下である。広州の貿易交易会での商談が不発に終わったことを示している。

 

(2)「特にサービス業では、新型コロナウイルス流行中の消費者信頼感、借り入れ、雇用見通しの著しい悪化がいまだ回復への大きな障害となっている。家計は2021年末の住宅市場崩壊と「ゼロコロナ」政策に基づく22年のロックダウン(都市封鎖)という残酷なワンツーパンチを食らい、まだ立ち上がれていない。これらの要因が雇用市場と、家計にとって重要な富の源泉である住宅市場の致命傷になったも同然だ。

 

ゼロコロナ期間の家計圧迫が現在も続いている。先進国は、家計へ現金を給付して購買力の直接支援をした。中国は、インフラ投資だけである。この差が、中国家計において信頼感低下として現れている。中国家計は、疲弊仕切っているのだ。国有企業が、インフラ投資で潤っただけである。

 

(3)「振り返ってみると、21年末から22年初めの時期がいかに重要だったかが明白になる。サービス業の雇用は20年初めからすでに比較的低調だったが、21年初めは建設業の雇用、家計の借り入れ、信頼感はいずれも高水準にあった。21年終盤にはこの3つ全てが下降トレンドに転じ、上海などの主要都市のコロナ流行を受けて政府が経済の大部分を停止させた後の22年初めには、救いがたいほどの水準に落ち込んだ」

 

現在の家計借り入れや信頼感は、大きく落ち込んでいる。この背景には、雇用状態の悪化がある。中国では、失業率が景気のバロメーターにはならず、製造業やサービス業のPMIの雇用状況を見るほかない。

 

(4)「その後遺症は長引いた。2021年9月以降のサービス業と建設業の雇用に関するサブインデックスの平均は、それ以前の5年間の平均をそれぞれ1.4ポイント、4.3ポイント下回っている。コンサルティング会社ガベカル・ドラゴノミクスによると、23年の名目家計所得の伸びは約6%にとどまる。2017、18、19年と21年はおよそ9%だった。消費者信頼感と借り入れは、コロナ前のすう勢をはるかに下回る水準で推移している

 

名目家計所得の伸び率は、従来の9%が23年に6%へ鈍化している。コロナ前の趨勢を下回っている。これでは、消費者信頼感が高くなるはずがない。景気停滞の元凶はここにある。

 

(5)「理由はいくつかあるが、重要な点は以下に集約される労働市場の深刻な状況が続く限り、家計は借金したり住宅を購入したりする気になれず、不動産開発業者の財務に対する信頼も低い。だが、住宅部門が回復しない限り、労働市場の足場も安定しないだろう。なぜなら住宅部門は建設労働者だけでなく、不動産仲介や家具販売にかかわる人々、トラック運転手、技術者、その他多くの人々に対し、直接的または間接的に多数の雇用を提供しているからだ」

 

住宅部門の回復がない限り、労働市場の安定はない。これが、消費者信頼感を引下げており、消費も回復しないのだ。となると、住宅部門の未完成工事をどうやって完成させるかが、景気対策の基本になる。中国指導部は、この肝心な部分を行わないで、道路や橋の建設ばかりに夢中になっている。的外れである。 

 

(6)「政府が、何らかの形で不動産開発業者の大がかりな救済に乗り出さない限り、経済がこのわなから効果的に逃れられるとは考えがたいしかし、ここ数年は住宅市場での投機や不動産業者の放漫経営を律することが政府のスローガンのようになっており、救済は政治的に至難の業だ。大規模な金融危機が起きない限り、最も抵抗に遭いにくいのは、遅々とした足取りで前進し続けることなのかもしれない」

 

政府は、住宅の未完成工事を優先して完成させなければ、民心が安定しないだろう。この微妙な点が、習氏は理解できずに堂々巡りをしている。